1989年11月にベルリンの壁が崩壊してから既に34年近くなる。ベルリンの壁は東西冷戦の時代に東と西を分断する象徴だった。その壁が崩壊して東西の主に経済的な融合、グローバル化が急速に進展して世界が今のようになった。ベルリンの壁と聞いて、そういう歴史の経過を実感をもって思い浮かべることができる人は少数派かもしれない。
9月21日岸田首相が、ニューヨークで演説して、海外資産運用業の日本市場参入を呼び掛けたというニュースが流れた。これを伝える各社のニュースを読んで、日本国民のためを考えて、日本で株式などによる資産運用を増やすために、もっと他にやることがあるだろうと感じた。
ご承知のように株式による資産運用の方法を大きく分けるとインデックス投資と個別株投資がある。そして運用によって益を得る方法を大きく分けると売買による収益(キャピタルゲイン)と配当による収益(インカムゲイン)がある。インデックス投資は資産を少しずつ増やすには良いが配当収益にはあまり重きがない。それに対して個別株投資は銘柄選択が難しいが、配当収益を得られるというメリットが大きい。ざっくり考えると、例えば、年金生活者などにとっては個別株投資で得られる株式配当を生活費の足しにするというやり方があっているのではないだろうか。一旦買い取った株式を死ぬまで保有すると考えたら、評価額の上下に一喜一憂する必要もないのだから。
少しばかり前置きが長くなったが、このような観点で、日本株と米国株で、主に配当重視の個別株投資を行ってみた結果、米国株の方が日本株よりも遥かに株主にとって有利になっていると感じた。
例えば、次のような点である。
(1) 米国株は1株から買い付けできるが、日本株は原則100株からとなり投資単位が大きい。
(2) 米国株は四半期毎(3か月に1回)の配当が多いが、日本株は半期毎の配当が主であり小さな銘柄では1年一回の配当である。
(3) 配当の権利確定日から配当が支払われるまでの日数でみると米国株は概ね30日程度であるが、日本株は90日程度かかる。
(4) 日本株は3月決算が圧倒的に多数で、12月決算と合わせると決算期が集中しており、その結果、配当支払い月も集中している。しかし、米国株の配当支払い月はかなり分散しているようだ。そこで、米国株を組み合わせることで毎月のコンスタントな配当収入の流れを作れるだろう(2023/10/11追記)。
なぜ、そのようなことになっているのか? これは恐らく日米の投資に関する規制の違いによるのではないかと思われる。これについては専門家の意見を聞いてみたいところだ。
昔、まだデジタルによる配信がなかった時代には、株式配当の受け取り用書類は郵便で送られてきたようだ。現代は株式の売り買いもネットでデジタルで行う時代である。ところが驚いたことに、日本株では株主総会招集通知はもとより、株式配当計算書が毎回郵便で送られてくる。株主総会は1年一回だが、株式配当計算書を毎回郵便で送付するのでは、株主数が増え、さらに配当回数が増えたらコストが膨大になることは容易に想像できる。また書面を作成して、印刷・送付するのに要する日数もかかる。株式配当計算や振込はコンピュータを使って実施すれば低コストで瞬時にできるはずである。ところが日本はいまだに書面なのである。
なぜ、デジタル化をさっさとやらないのか? デジタル化すればコストをそれほど増やすことなく一株株主の獲得も可能だろう。
2023年度の決算から、上場企業については株主総会招集通知のWeb化が義務付けられるようだが、このように、従来書面で行っていた手続きを、デジタル化にするには法規制が大きな壁になっているようだ。
銀行などの案内を見ても、書面の手続きとデジタルの手続きの間の壁が非常に複雑で大きいということを感じる。
岸田首相は、ニューヨークで富裕層向けの演説をする前に、日本の市民株主がもっと手軽に株を売買し、配当所得を享受できるようにするべきではないだろうか?
そのためにはまず書面とデジタルの間にあるベルリンの壁をぶち壊すことだろう。
ちなみに、ベルリンの壁の建設を担当したのはホーネッカーとされている。ホーネッカーは1989年にベルリンの壁が崩壊するまで東ドイツの権力者としての地位にとどまった。ベルリンの壁は東ドイツの発展を妨げ、ホーネッカーにとっては自ら構築した壁によって権力が維持されたのである。翻って、日本の紙と電子の壁は誰によって作られ、誰のために存在するのだろうか?
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