5月14日の日経に面白い記事がありました。
「正直者は株価上がらず 決算反応、関税影響お構いなし」
ポイントは「関税影響が予想される88社を対象に調べたところ、影響を織り込まないか開示しなかった企業群は、詳細な情報を開示した企業群に比べて発表からしばらくは株価が高い」として「「正直者」企業が評価されない相場」という話題です。
似たような例ですが、建設機械のコマツと日立建機の決算発表に対する株価の反応に興味深い点があったので紹介します。
2025年3月期決算比較
両社とも2025年3月期の決算は比較的速く4月下旬に発表されました。主要な項目は次のようになっています。
税引前の利益でみるとコマツが利益率15%と素晴らしい成績です。日立建機も同10%なので良い成績といえるでしょう。2025年3月期一株あたり利益はコマツが473.44円、日立建機が382.83円でした。配当はそれぞれ190円(5/15終値で配当利回り4.4%)、175円(同4.0%)と両社とも高配当です。
さて、違いは2026年3月期の予想です。2026年3月期一株あたり利益予想はコマツが334.83円と29%減、一方、日立建機は390.22円と2%増です。明暗が大きく分かれています。なぜこんなに差が出るのでしょう?
予想の前提はコマツが保守的、日立建機が楽観的
売上予想はコマツが8.8%減、日立建機は0.3%増と見ています。これが利益率の増減の大きな要因でしょう。
さらにその前提になっている為替レートをみると、コマツは1ドル135円、日立建機は1ドル145円と10円もの差があります。
決算短信の中の次期予想の説明をチェックしてみます。
コマツは「建設機械・車両部門では、(中略)、円高及び米国の関税政策の影響により、減収となる見通しです。利益については、(中略)円高及び米国の関税政策の影響に伴うコストの増加により減益となる見通しです。」とあるので、米国の関税政策の影響を織り込んでいると解釈できます。
日立建機は「米国における関税政策の影響については、一定の想定に基づき需要減退や関税そのものによる影響額を推定しているものの、現時点では政策動向が流動的であることから、本業績見通しには織り込んでおりません。」とあり、社内的な推定は行っているが業績見通しに織り込んでいないようです。
主に、為替レートの予想、関税の影響について、コマツは保守的な見通しを立て、日立建機は楽観的な見通しといえるでしょう。
さらにコマツは2026年度に発行済み株式数の4.3%の自社株買いを予告しています。これは1年後の一株益上昇の要因になります。
市場は圧倒的に日立建機を支持
次の表に株価をチェックした結果を紹介します。
コマツは2月19日に年初来高値をつけ、4月7日にトランプ関税ショックで3,630円まで下げた後、戻っているものの高値までは戻っていません。一方の日立建機は4月7日に同3,294円に下げた後、決算発表を挟んで急上昇、5月13日に年初来高値を付けました。
決算発表日から今日までの動きでもコマツが184円の上げに対し、日立建機は312円の上げと対照的な動きになっています。両社とも今期の配当予想は据置なので、売上と利益の予想の表面的な明暗が、この株価の動きの相違をもたらしたものと考えられます。
さて、あなたがもしどちらかを選ぶならどちらの株を選択しますか?
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