さて、これまで何度も示した通り、2024年1月から電子取引を行った場合、その取引データを印刷して書面として保存するだけでは国税関係書類が適切に保存されているとは看做されなくなります。
こうして、来年1月から電子取引データは必ずデジタルで保存しなければならなくなります。その保存要件が2024年1月1日から施行される財務省令(施行規則)の第4条1項に示されています。
詳しくは、2024年1月からの電子取引データ保存方法がどうなるか? 財務省令(施行規則)を読んでみるをご覧いただきたいのですが、第4条に1項に掲げられている保存要件の多くは現実的とは思えない内容です。
保存義務者である企業の経営者の立場から見ると、決算に使った請求書・領収書などの書類は、決算が終わってしまえば、その役目を終えたものです。従来、取引関係書類を書面で交換していたり、あるいはPDFで受け取ってもそれを書面にプリントして保存できた時代であれば、決算処理が終了したあと、書類を整理して段ボールに収めた上で倉庫の片隅に10年ほど保存しておけばそれで済んだわけです。
それが取引データをデジタルで交換したとたんに、「タイムスタンプを打て」とはどういうことでしょうか。これはあたかも、上流から流れてきた河原の石ころに金メッキを施して保存せよ、というようなものでしょう。
他にもあります。「訂正削除できないか、訂正削除の事実・内容を確認できるシステムを使用して授受及び保存を行う」とは一体どういうシステムを使えというのでしょうか?
このように施行規則第4条1項は、石ころほどの価値しかもたない・使い終わった書類を保存するために、不必要としか思えない保存要件を要求していると言えます。納税者側の立場からみると、施行規則を守って保存してもなんら新しい付加価値が生まれることはないのです。こういうおかしな規制が広く普及するはずはないのは子供でも分かることでしょう。
電子帳簿保存法が2021年に改定されてから2年間、あまりにも多数の国民からの疑問が相次いだためか、2024年1月の施行規則では第4条3項が整備されて、次の文が追加されました。
所轄税務署長が当該財務省令で定めるところに従って当該電磁的記録の保存をすることができなかったことについて相当の理由があると認め、かつ、当該保存義務者が国税に関する法律の規定による当該電磁的記録及び当該電磁的記録を出力することにより作成した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示若しくは提出の要求に応じることができるようにしているときは、第一項の規定にかかわらず、当該電磁的記録の保存をすることができる。
これに関連する国税庁の一問一答は次のようになっています。
問61 電子取引について、税務署長が「要件に従って保存することができなかったことについて相当の理由がある」と認める場合に、出力書面の提示又は提出の求めに応じることができるようにしているときは、保存時に満たすべき要件が不要となる旨の規定が設けられていますが、どのような場合がここでいう相当の理由があると認められることとなりますか。
【回答】
令和5年度の税制改正において創設された新たな猶予措置の「相当の理由」とは、例えば、その電磁的記録そのものの保存は可能であるものの、保存時に満たすべき要件に従って保存するためのシステム等や社内のワークフローの整備が間に合わない等といった、自己の責めに帰さないとは言い難いような事情も含め、要件に従って電磁的記録の保存を行うための環境が整っていない事情がある場合については、この猶予措置における「相当の理由」があると認められ、保存時に満たすべき要件に従って保存できる環境が整うまでは、そうした保存時に満たすべき要件が不要となります。ただし、システム等や社内のワークフローの整備が整っており、電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存時に満たすべき要件に従って保存できるにもかかわらず、資金繰りや人手不足等の理由がなく、そうした要件に従って電磁的記録を保存していない場合には、この猶予措置の適用は受けられないことになります(取扱通達7-12)。
なお、この猶予措置の適用を受けるに当たり税務署への事前申請等の手続は必要ありません。
一言でいうと、環境が整わなかったという理由さえあれば、第4条1項に示す要件が不要になるということです。
いままで迷走を続けてきた電子帳簿保存法第7条電子取引データの保存は、ますます、混迷の度合いを深めてしまった、という印象もあります。しかし、一方、納税者から謙虚にみると、ある意味常識的な方向に向かっているかもしれないとも言えるのかもしれません。
前回:2024年1月からの電子取引データ保存をどのように進めたら良いかを考える(2)保存しなければならない書類は?
次回:2024年1月からの電子取引データ保存 結局、どうしたら良いのでしょうか?