2024年1月からの電子取引データ保存方策検討:検索要件対応で選択肢を細分すると・・・

電子帳簿保存法第7条で義務付けられている電子取引データ保存の方策を続けて検討します。2024年1月から施行される財務省令(施行規則)で適法とされる保存方策を検索要件対応まで考慮して分けると次の図の1~4の4レベルになります。

背景を黄色で塗りつぶしたセルは2024年より変更(対象者拡大)になったもの。背景をうす緑色で塗りつぶしたセルは2024年より新規追加されたものです。

保存要件対応策については、本ブログで何回か検討してきました。これまでは、検索要件対応についてのレベルを分けずに、次の二つの対応策を検討しました。
A 規則第4条第一項の保存要件に対応して保存する。
B 電子取引データの保存要件に対応せず保存だけする。

参考)
電子取引データ保存の2つの方策を比較する(9月5日)
2024年1月からの電子取引データ保存義務化への対応方法(9月4日)

保存方策Aは検索要件への対応レベルを加味すると、図表の1~3に細分できることになります。

検索要件については前回のブログで説明しています。
電子取引データ保存要件の中で、複雑なパズル並みに理解し難いのが検索要件だ

イは、①取引年月日その他の日付、②取引金額、③取引先の3項目を検索の条件として適用できるように設定するという要件です。

検索項目の設定方法としては、ワークフローシステムから電子取引データを登録するときに、自動的に検索項目を設定するシステムを構築できれば工数がかかりません。しかし、そうではなく、電子取引データを人手で登録し、そのときに検索項目を設定することになると結構工数がかかり負担が大きくなります。

検索要件のロ、ハは検索を手作業で行うときは負担になるかもしれませんが、データ保存にデータベースシステムを使っている場合は負担にならないでしょう。つまり図表の「2 検索要件イのみ対応」のメリットは大きくありません。

こうしてみると図表の「3 検索要件に対応せず保存する」という方策は検索項目を設定する必要がなくなるので、手作業で登録する際のデータ保存コストが小さくなりメリットがあります。

検索要件に対応しなくても良いケースは、2024年1月からの施行規則で適用範囲が拡大されました。具体的にはつぎのようになっています。

(1) 基準期間の売上高が5000万円以下の事業者は、税務調査でのダウンロードの求めに応じる場合、検索項目の登録が不要です。(2023年12月までは同期間の売上高が1000万円以下)。
(2) 電子取引データを出力した書面を日付などで整理をしたうえで提示・提出する求めに応じ、かつ、電子取引データのダウンロードの求めに応じる場合は検索機能の確保の要件は不要になります。(2024年1月より新設)

(2)は売上高が多くても適用されます。書面に出力したものを整理しておく必要があるので電子取引データの件数が多いとコストが大きくなりますが、件数が少ないときは採用を検討する価値があります。

前回:電子取引データ保存要件の中で、複雑なパズル並みに理解し難いのが検索要件だ
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電子取引データ保存要件の中で、複雑なパズル並みに理解し難いのが検索要件だ

電子帳簿保存法第7条の電子取引データ保存要件は全体として複雑ですが、特に分かりにくいのは、検索要件です。

検索要件の原則は登録された電子取引データから次の条件を指定して該当するものを探す(絞り込む)ことができるようにすることとされています。

イ 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先(ロ及びハにおいて「記録項目」という。)を検索の条件として設定することができること。
ロ 日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること。
ハ 二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること。

イを実現するには、まず、それぞれの取引データに対して、①取引年月日その他の日付、②取引金額、③取引先を検索キーとして設定しておく必要があります。検索キーを設定しないで、全文検索で要件を満たすのはおそらくできないでしょうから、各取引データを保存するときに、検索キーの値を確定してその取引データに対応付けなければならないでしょう。

電子取引データの保存にデータベースシステムを使えば、検索キーを指定して入力する工数がかかりますが、ロ、ハの検索条件指定による絞り込み自体は簡単です。

ところが、国税庁の一問一答を見ると、なかなか面白いQ&Aがあります。

問16 妻と2人で事業を営んでいる個人事業主です。取引の相手方から電子メールにPDFの請求書が添付されて送付されてきました。一般的なパソコンを使用しており、プリンタも持っていますが、特別な請求書等保存ソフトは使用していません。どのように保存しておけばよいですか。
【回答】
例えば、以下のような方法で保存すれば要件を満たしていることとなります。
1 請求書データ(PDF)のファイル名に、規則性をもって内容を表示する。
例) 2022年(令和4年)10月31日に株式会社国税商事から受領した110,000円の請求書
⇒「20221031_㈱国税商事_110000」
2 「取引の相手先」や「各月」など任意のフォルダに格納して保存する。

ファイル名に検索キー3項目の値が設定されているので、ロ、ハの要件による絞り込みは実現可能なはずです。しかし、簡単ではないように思います。例えば、金額の範囲を指定して絞り込むことが簡単にできるのだろうか? そもそも、「取引の相手先」や「各月」でフォルダを分けていれば、ファイル名に取引の相手先や日付を設定する必要はないと思うのだけどね。

なお、この回答の解説には次のような検索簿の例もあります。ファイル名がこの例のようについていれば、ファイル名から図のような検索簿を作り出すのは難しくないでしょうが、いかにも整理されていない質疑応答の印象があります。


(問16の解説にある図)

こういう質問が多くあったためか基準期間の売上高が少ない事業者は検索要件が免除されています。

(上記引用の続き)
※ 税務調査の際に、税務職員からダウンロードの求めがあった場合には、上記のデータについて提出してください。
※ 判定期間に係る基準期間(通常は2年前です。)の売上高が5,000 万円以下であり、上記のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合又は電磁的記録を出力した書面を取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものを提示・提出できるようにしておき、上記のダウンロードの求めに応じるようにしている場合には、上記1の設定は不要です。
(注) 令和5年度の税制改正前(令和5年12 月31 日までに行う電子取引の取引情報)については、判定期間に係る基準期間の売上高が1,000 万円以下であり、上記のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合に限り、上記1の設定等による検索機能の確保が不要となります。

この文章は、「上記のデータを提出してください。」と言っている一方で、「上記1の設定は不要です」と言っています。設定不要なら当該データは存在しない。しかし、データが存在しなければ提出できない。そうすると二つ目の引用部分は論理的に破綻してしまいませんか?

この質問の回答からは、検索要件の確保が不要な事業者はデータをどのように整理して出せば良いのかが理解できません。この回答を読み解くのは、筆者にとってはパズルを解くより難しいです。

出典は『電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】』(令和5年6月国税庁)

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電子取引データ保存の2つの方策を比較する

昨日は、「2024年1月からの電子取引データ保存義務化への対応方法」で、2024年1月から電子取引データ保存の方法として、次の2つの方法のどちらかを選択できると説明しました。

A 規則第4条第一項の保存要件に対応して保存する。
B 電子取引データの保存要件に対応せず保存だけする。

Aの場合には、電子取引データを書面とする必要がありませんが、Bの場合には税務調査で電子取引データを印刷したものを書面として提示・提出が求められます。

各保存義務者によって、取引件数、取引全体に占める電子取引の割合、社内のワークフローやシステムが異なるので、その実情を鑑みて、A、Bのどちらかを選択します。選択の指針はおおむね次のようになります。

Aを選択するのが良いケース

次のように業務処理の流れ(ワークフロー)が概ねデジタル化されている場合にAを選択すると良いでしょう。

  • 電子取引データの件数が多く、保存(倉庫など)のスペースや作業効率からデジタル化が書面よりも有利である。
  • 社内のワークフローのデジタル化が済んでおり、デジタル保存の仕組みも整っている。
  • 外部との取引はすべて電子化されている。あるいはその大部分が電子化されており、近いうちにデジタルに統一される。

Bを選択するのが良いケース

逆に、次のようにワークフローが概ね書面ベースになっている場合にBを選択すると良いでしょう。

  • 社内のワークフローが書面ベースになっている。つまり書面で社内手続き処理を進め、書面で保存するようになっている。
  • 取引書類の過半数が書面であり、電子取引データの割合は少ない。取引書類はすべて書面に揃えて保存しておくほうが効率的であり、後で探しやすい。
  • もともと書類の件数自体が少なく、電子取引データ保存要件を満たす仕組みを導入してもコスト面で引き合わない。

現在、社外との取引をすべて電子的手段で行っており、書面(紙)での取引データ交換はない、という会社はほとんどないでしょう。そうすると、書面と電子データ交換(EDI、ECストアあるいはe-メール)を併用しているはずです。

Aを選択した場合は、書面をスキャナーで電子化してワークフローに載せることになります。書面の取引書類は税法上の保存義務があるため、原則として原本の書面を廃棄できません。もし、廃棄したい場合は、電子帳簿保存法のスキャナ保存という制度を利用する必要があります。

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2024年1月からの電子取引データ保存義務化への対応方法

電子帳簿保存法第7条で義務付けられている電子取引データのデジタル保存ですが、2023年12月で宥恕措置期間が終了し、2024年1月から必ずデジタル保存をしなければなりません。

この保存方法については、「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則」(以下、規則)の第4条で決まっています。第4条は2023年3月に改正されました。新しい規則は2024年1月から施行されます。

2024年1月からは、第4条の規定に従うと、保存義務者がデジタル保存を実施するときの方策は、次のA、Bのどちらかを選択することになります。

A 規則第4条第一項の保存要件に対応して保存する。

施行規則第4条第一項については、例えば、「電子取引の保存要件に対応するには」をご参照ください。
この場合、電子データを印刷した書面を保存する義務はありません。

アンテナハウスは、2022年1月から、『電子取引Save』を使用して、電子取引データを規則第4条第一項の保存要件に対応して保存しています。これを運用開始して1年8カ月経過しています。保存要件に対応するために必要な中で工数がかかるのは、検索要件を満たすことです。具体的には取引データを1件登録するごとに、検索用の項目(取引先名、取引金額、取引日付)を入力しなければなりません。これは入力作業に結構手間がかかる要因になっており、よい解決方法が望まれています。

今回、『電子取引Save V2』では、入力を効率化するための機能をいくつか追加しています。

B 電子取引データの保存要件に対応せず保存だけする。

2024年1月から規則に定められた保存要件は気にしないで、電子データ・ファイルをPCのフォルダなどに保存しておくことが選択できるようになります。

この場合でも税務調査で要求された電子データを提示・提出できることが必要です。そのためには、例えば、従業員各人のPCなどにばらばらに保存するのではなく、保存につかうと決めたPCに、会社全体のファイルを集中し、整理しておくのが良いでしょう。例えば会計年度別・業務別にフォルダを作成し、所定フォルダに分類しておくと見つけ易くなります。

さらに電子ファイルを保存しておく一方で、その内容を印刷した書面を整理した状態で提示・提出できるようにしておかなければなりません。書面の整理・保存はこれまで行っていた方法どおりと考えられますが、具体的には顧問税理士などに相談されると良いでしょう。

方法Bでは、検索要件に対応する必要がないので、保存作業の負荷は小さくなることが期待できます。

前回:電子商取引についての調査報告から電子取引データ保存を考えてみる
次回:電子取引データ保存の2つの方策を比較する

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電子商取引についての調査報告から電子取引データ保存を考えてみる

8月31日付けで、経済産業省から電子商取引に関する市場調査結果が発表されました。

経済産業省のプレスリリース

電子商取引の普及度合は、電子帳簿保存法で対象とする電子取引の普及度合と関係が深いでしょう。そうすると電子取引データの保存の市場を考える上でも参考になりそうです。そこで、次に両者の関係について、整理しながら考えてみました。

本調査では、日本の電子商取引を、国内電子商取引(BtoC-EC、BtoB-EC)、国内の個人間電子商取引(CtoC-EC)、日本と米・中国の3国についての国際電子商取引(越境EC)に分類して、その市場規模を推定するとともに、一部のみですが、EC化率(市場規模全体に対する電子商取引の割合)を推定しています。

まず、電子商取引(EC)の定義は、OECDでは次のようになっています。(報告書p.13)

(1)広義には、企業、世帯、個人、政府、公的機関の間の物やサービスの取引で、注文がコンピュータのネットワークを介して行われるもの、とされています。EDIやオンラインアプリケーションでの注文を含みます。支払いや配送の形態は問いません。
(2) 狭義にはWeb・インターネットを用いたものとされています。

本調査では、広義には、「受発注がコンピュータネットワークシステム上で行われ、成約金額を補足できる」としています。狭義には、そのうち、インターネットで通信を行うものとしています。

商取引のプロセスの中では、受発注時を対象にしており、製品情報の提供・見積り・計画などの成約前段階、請求・決済・納品・保守サービスなどの成約後プロセスは含んでいません。これは、ECの市場規模を補足するということが大きな目的になっているためでしょう。

電子帳簿保存法でいう電子取引では、請求・決済の取引も含むので、本調査とは商取引プロセスの中でカバー範囲が広くなっています。

細かい話はこれぐらいにして、ざっくり、ECがどの位の割合になっているかを見ると、次のようになります。

1.国内の物販BtoC-ECは、2021年から2022年成長率5.37%、EC化率は2022年で9.13%
2.国内サービス系・デジタル系BtoC-ECは2021年から2022年成長率がそれぞれ32.4%、▲6.1%。EC化率は計算せず。(少なくともデジタル系は成約は100%ではないだろうか)
3.国内BtoBのECは、2021年から2022年成長率12.7%、EC化率は2022年で37.5%(報告書 p.92)

電子帳簿保存法7条で保存対象となるのは、主に法人税に関係する電子取引が多いはずです。BtoC-ECでは主に売り手側、BtoB-ECでは売り手側と買い手側になります。BtoCの物販系取引は、EC化率9%なので大部分が書面取引になり、BtoBはEC化率が平均37.5%ということなの過半数が書面取引になるとみられます。

こうしてみると、2022時点では電子取引より書面の取引がかなり多かったと言えそうです。例外として、BtoCのサービス、BtoCのデジタルの領域では電子取引が多いものと推測されます。

参考)
令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」(令和5年8月 経済産業省 商務情報政策局 情報経済課)

前回:EDI(電子データ交換)による電子インボイス交換と取引データのデジタル保存対応
次回:2024年1月からの電子取引データ保存義務化への対応方法

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EDI(電子データ交換)による電子インボイス交換と取引データのデジタル保存対応

電子帳簿保存法で、国税関係の保存義務者が電子取引を行った場合、電子取引データをデジタルで保存することが義務付けられています。

電子取引を行う仕組みの一つとして、EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)があります。EDIは一般的には、異なる組織間で合意された規約に基づいてコンピュータ業務システム間でデータ転送を行う仕組みとされています。

EDIは参加する組織、交換するデータなどに応じて多種多様ですが、比較的大きな企業が中心になって運営するもの、または業界EDIが普及しているようです。一方、中小企業向けのEDIや電子インボイスを交換する新しいEDIのサービスも始まっています。

EDIによる電子インボイス交換

2023年10月から消費税のインボイス制度がスタートします。これにともなってEDIで電子インボイスを交換する規約が策定されています。

中小企業共通EDI

「中小企業共通EDI」は、中小企業間の取引のデジタル化を目指す規約です。中小企業庁の後援を得て、ITコーディネータ協会が策定しているものです。

中小企業共通EDI

「中小企業共通EDI」のV4では、国連CEFACTを元にして、日本の中小企業取引環境や商習慣に適合させた標準インボイス仕様を策定しています。

中小企業共通EDI標準のバージョンアップ(ver.4)版の公開

JP PINT

もうひとつは、デジタル庁が日本におけるオーガナイザーとして運営を始めたJP PINTの電子インボイスです。

JP PINT(デジタル庁)

デジタル庁はPeppolの運営団体であるOpenPeppolのメンバーとして、日本におけるネットワークのオーソリティーになるとともに、日本のインボイス制度で使用できるインボイス形式を決めています。

現時点では、「適格請求書」「仕入明細書」「区分記載請求書」の3種類の仕様が公開されています。

なお、これらはもともと欧州の電子インボイス交換ネットワーク規約であるPeppolがもとになっています。Peppol(Pan European Public Procurement Online)は名前のとおり、欧州でスタートしたものです。その後、シンガポールやオーストラリア、ニュージーランドなど大洋州に広まるとともに、PINT(Peppol International)という名称も使われるようになっています。

連携補完機能

中小企業EDIやJP PINTのネットワークで、電子インボイスが交換されると、それは電子取引にあたるので、取引データをデジタルで保存することが義務付けられます。

中小企業EDIでは、EDIと企業内のアプリケーションとの間でデータ形式を変換したり、ネットワークに接続して送受信を支援するツールを、連携補完アプリと呼びます。

アンテナハウスでは『電子取引Save V2』を発売するにあたり、オプションとして、JP PINTで交換される電子インボイスを、『電子取引Save』に自動的に取り込む機能をもつ、連携補完機能を用意しました。この連携補完機能は中小企業EDIでいうと連携補完アプリの一種になります。

前回:2024年1月から電子取引データのデジタル保存を始める場合の最適な対応方策は?
次回:電子商取引についての調査報告から電子取引データ保存を考えてみる

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2024年1月から電子取引データのデジタル保存を始める場合の最適な対応方策は?

本ブログをいままでお読みいただいていた方には、既に耳にたこができると感じておられるかもしれませんが、次に2024年1月から新しく電子取引データのデジタル保存を始める場合の対処策について考えてみます。

前提条件

2021年3月に改定された電子帳簿保存法第7条(法律)により、国税関係の保存義務者が電子取引を行った場合、その取引データをデジタルで保存する義務が課せられています。2023年1月迄は書面に印刷して保存も認められていました(宥恕措置)が、2023年12月で宥恕措置は廃止となります。

保存の方法については財務省令(以下、施行規則)によります。当該施行規則は2023年3月31日に公布され、2024年1月1日より施行となります。その施行規則を前提として保存施策を検討します。

電子取引データ保存の方法については、施行規則4条の1項と3項に規定されています。1項は保存要件を満たした上で保存する方法です。3項は間に合わない場合、要件に関わらずに保存する方法です。なお、すでに保存要件を満たした保存を行っている場合、3項の適用は認められないようです。

現状と課題

これから電子取引データのデジタル保存を開始する保存義務者は、取引データ保存の現状は次のいずれかになっているはずです。

・電子取引データを印刷した書面を保存することで法的保存義務を満たしている(宥恕措置で2023年12月迄は問題ない)
・電子取引を行っておらず、書面による取引のみを行っている

こうした保存義務者は書面依存になっているといえます。

従来、書面依存の保存義務者が、2024年1月から書面を完全に廃止して、電子取引に切り替えることは困難でしょう。すると、2024年1月以降は電子取引に加えて、書面による取引書類も残ります。その書面も保存する必要があります。

解決方策

電子取引と書面取引が混在している場合、取引書類保存策は次の3つです。

(1) 2024年1月から書面による保存を一切廃止し、デジタルデータの保存に切り替える。

この場合、書面取引で交換した書面をスキャナーでデジタル化して保存する必要があります。このためには電子帳簿保存法のスキャナ保存の要件を満たしての保存が必要です。そうすると書面を廃棄できます。

さらに、電子取引データは、施行規則4条1項の要件を満たすデジタル保存を行います。

以上を実施すると、書面を保存する必要がなくなり、フルデジタルの保存となります。

(2) 書面の保存とデジタルの保存を並行して行う。

書面による取引は書面を保存する。電子取引は施行規則4条1項の要件を満たすデジタル保存を行う(電子取引データを印刷した書面の保存はしない)。

この場合、取引の記録はデジタルデータと書面のどちらかで保存することになります。ある取引記録を探すには、両方を探してみないと見つけることができません。

(3) すべてを書面として保存し、電子取引データはデジタル保存もする。

この場合、書面は次の2種類となります。
a. 書面による取引に用いた書類
b. 電子取引の取引データを印刷した書面(電子取引の取引データはデジタルでも保存されている)

すべての取引データは書面で保存されているので、取引の記録は書面の中から探すことができます。一方、デジタルデータは部分的な記録のみとなります。

具体例で考察

例えば、2024年に契約書を年間100件締結する見込みとします。その半分が契約書を書面で交換し、残りの半分が電子契約で契約書を交換する見込みだとします。

この契約書の法的保存方策は次の3通りのどれかです。

(1) 書面による契約書をスキャナで電子化し、スキャナ保存の要件を満たす保存を行う。また、電子契約による契約書は施行規則4条1項の要件を満たすデジタル保存を行う。

この方式では書面の契約書は廃棄し、すべての契約書をデジタルで保存することとなります。100件のデジタルデータを保存します。

(2) 書面による契約書は書面で保存する。また、電子契約による契約書は施行規則4条1項の要件を満たすデジタル保存を行う(電子契約書は書面で保存しない)。

この場合、書面の契約書と、デジタルの契約書がそれぞれ法的要件を満たすことになり、書面保存が50件、デジタル保存が50件です。

(3) 書面による契約書は書面で保存する。また、電子契約による契約書は書面に印刷して保存すると同時に、施行規則4条1項を気にしないで、4条3項によるデジタル保存を行う。

この場合、書面の契約書は100件、デジタルで保存した契約書が50件となります。2024年の契約書を全部調べるなら書面の契約書を調べる必要があります。

評価と選択

2024年1月からの電子取引データの保存方針を決めるには、この3種類の保存方策の優劣を評価した上で、方策を選択する必要があります。

どの方策を選択するかは各保存義務者がどのような取引を行っているか、それぞれの実態によって変わると思われます。

場合によっては、(1) 売上にかかる取引記録はすべてデジタル保存、(2) 仕入れや経費にかかる取引記録は書面とデジタルを並行し、(3)契約書は書面を主とする、というように、取引の区分ごとに(1)~(3)の保存方策を使い分けたいことがあるかもしれません。このような方策が許容されるかどうかは、施行規則4条を読んでも直ちに判断ができません。

前回:中堅・中小企業は2024年1月から施行される電子取引データ保存にどう対処するか
次回:EDI(電子データ交換)による電子インボイス交換と取引データのデジタル保存対応

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中堅・中小企業は2024年1月から施行される電子取引データ保存にどう対処するか

2年ほど前のことですが、電子帳簿保存法が2021年に改定されました。その第7条で国税関係書類の保存義務者が電子取引を行ったときには、取引データを書面に印刷して保存できず、デジタルで保存しなければならないと義務付けられました。

それに基づいて、主に弊社のような小規模な企業が、電子取引データ保存義務にどのように取り組んだら良いかを検討し、「中堅・中小企業は2022年1月から施行される電子帳簿保存法第7条電子取引データ保存にどう対処するか(考察)」(2021年11月2日、2021年12月15日税制改正大綱について追記)をまとめました。

本文はWebページで公開していますが、これから書き直す予定なので、現状の内容をPDFに印刷したものを次にリンクしておきます:
電子帳簿保存法第7条電子取引データ保存について – アンテナハウス(資料1)

本資料を公開後の2021年12月27日公布の財務省省令(施行規則)で宥恕措置が導入されました。こうして、電子取引データのデジタル保存義務開始は実質的に2年延期され、2024年1月からとなりました。2024年1月施行で、どのような変更があったのかは、これまでの本ブログで細かく紹介したとおりです。

いままで本ブログで紹介してきた財務省令の変更ポイントを改めて見直し、一番大きな変更点をあげるとすると次になります。

「電子データによる保存が間に合わないときは、保存要件に関わらずデジタルデータを保存しても良い。」

当初の資料1では、どのようにしたら施行規則(4条1項)で定められている保存要件を守って保存ができるかという点に絞って、検討しました。

ところが、2年延期の末に、施行規則の方に「保存要件に拘らないで保存しても良い」という正反対ともいえる規制項目が追加されてしまったということになります。

もちろん、従来どおり保存要件を満たす保存もできます。

なお、既に保存要件を満たす保存をしている場合は、システム更新によって保存要件を満たさない保存に変更することは認められていません。(一問一答 問63)

あらたに電子取引データを保存する人たちだけですが、保存要件に拘らない電子取引データ保存も可能になるため、2021年11月に作成した上記資料1は見直しが必要となりました。現在思案中です。

こうして、だんだんと話が複雑になりますが、なんにしても対処策の改定が必要となっています。

前回:2024年1月から義務化される電子取引データのデジタル保存用に最適『電子取引Save V2.0』を9月リリース予定
次回:2024年1月から電子取引データのデジタル保存を始める場合の最適な対応方策は?

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2024年1月から義務化される電子取引データのデジタル保存用に最適『電子取引Save V2.0』を9月リリース予定

本ブログでは、2024年1月から義務化される電子取引データのデジタル保存について、財務省令やそれに基づく国税庁の一問一答を紹介してきました。

ブログを読まれた方の中には、来年からどうしようかとお悩みの方も多いかと思われます。見積、請求、領収書を書面で交換していた時代と比較すると、デジタル化することで、却って保存が厄介になってしまうという印象を持たれる方が多いのではないでしょうか。

その大きな原因は、財務省令(施行規則)によって、デジタル保存に複雑な要件を追加してきたためです。ところが、間に合わない向きが多いとみると、今度は要件はほぼそのままで、間に合わないなら要件を満たさなくても良いという猶予条件を追加したため、事態がさらに複雑になってしまいました。ということで、2024年からまだしばらくは混迷が続きそうです。

中堅・大企業であれば、システム投資によって、施行規則の要件を満たすデジタルワークフローを構築するなどで効率的な対応も可能です。しかし、中小企業では大きなシステム投資をしても、投資が大きいわりに効果が上がらないのでシステム化による解決が困難です。

こうした問題を解決するため、アンテナハウスでは「簡単導入」「自動入力」「ミニマムコスト」のコンセプトにより、『電子取引Save V2.0』を開発しています。

『電子取引Save』のWebページ

本製品は、電子取引データ保存に関係する社員が50人内外(10人から100人程度)のユーザーを想定して、できるだけ小さなコストで、電子取引データ保存を効率的に行えることを目標にしています。V2.0で追加した主な機能は次のページをご参照ください。

電子取引Save:V2.0 お知らせ

正式リリースは、2023年9月中を予定していますが、本日(2023年8月24日)より「ベータ版」の評価用ダウンロードを開始いたします。

なお、V2.0よりオプションとしてJP PINT用連携補完アプリも販売開始します。

JP PINT『連携補完機能』オプション

前回:2024年1月からの電子取引データ保存 結局、どうしたら良いのでしょうか?
次回:中堅・中小企業は2024年1月から施行される電子取引データ保存にどう対処するか

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2024年1月からの電子取引データ保存 結局、どうしたら良いのでしょうか?

2024年1月から法人税や所得税(源泉徴収関係は除外)の納税者が電子取引を行ったら、電子取引データをデジタルで保存しなければなりません。

もともとは2021年の電子帳簿保存法の改定により、2022年1月開始の予定でしたが、2022年から2年間の宥恕措置が設けられた結果、2023年12月までは電子取引データを書面にプリントして保存しても税法で要求される保存として認められました。

しかし、宥恕措置は12月末で廃止され、2024年1月からは印刷して書面で保存しても、書面だけでは税法上の保存ができているとは看做されないことになります。

いよいよ待ったなしで対策・準備が必要となっています。本ブログではこれまで7回に渡り、電子帳簿保存法の施行規則の変更点を中心に検討してきました。

ブログをお読みになって「それで、結局、どうしたら良いの?」という疑問を持たれた方も多いでしょう。そこで、次から、電子取引データのデジタル保存の準備ができていない保存義務者を対象として、どうしたら良いかを考えてみましょう。

まず、最初に言えることは、企業の経営にせよ、個人事業にせよ、自らが行った取引の記録を適切に保存することは、正しい経営管理、経理会計ひいては正しい意思決定を行うための前提条件です。

そして、現在、社会の仕組み全体として取引の仕方が、書面による情報交換からデジタルデータによる情報交換に変わっていきます。そうしたことを考えると、財務省や国税庁がどう考えているかに関わらず、電子取引データのデジタル保存に取り組むことは重要な課題と考えられます。

そのうえで、施行規則の第4条に対して、2024年1月からどういうスタンスで臨むかということを決める必要があります。

方針として、(1) 施行規則第4条1項で定めている保存要件を満たす取り組みを目指すか、それとも、(2) 当面は要件を満たす保存を目指すことを諦めて、3項の猶予措置で対応することを目指すかを決めることが必要です。

まず、(2)の猶予措置で対処するにはどうしたら良いかを検討します。このための条件については国税庁の一問一答 問64に一番詳しく書かれていますので、それを引用してみましょう。

問65
相当の理由が認められ、かつ、電子データ及びその電子データを出力した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限ります。)の提示又は提出の求めに応じることができれば、保存時に満たすべき要件に従った電子データの保存をしていなくても要件違反にならないとのことですが、「整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたもの」とはどのようなものでしょうか。また、「保存義務者が国税に関する法律の規定による当該電磁的記録及び当該電磁的記録を出力することにより作成した書面…の提示若しくは提出の要求に応じることができるようにしている」とありますが、具体的にはどのような対応が求められるのでしょうか。

【回答】
規則第2条第2項第2号において、電磁的記録の画面及び書面への出力は「整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができる」必要があると規定されており、規則第4条第3項の規定における「整然とした形式及び明瞭な状態で出力された書面」についても、同号における「整然とした形式及び明瞭な状態」と同様に、書面により作成された場合に準じた規則性を有する形式で出力され、かつ、出力された文字を容易に識別することができる状態をいいます。

また、「保存義務者が国税に関する法律の規定による当該電磁的記録及び当該電磁的記録を出力することにより作成した書面…の提示若しくは提出の要求に応じることができるようにしている」については、税務調査等の際に、税務職員の求めに応じ、電子データ及びその電子データを出力することにより作成した書面の提示又は提出(以下「提示等」といいます。)をしていただく必要があります。

なお、猶予措置の適用を受ける際の出力書面の整理方法については、法令上特段の規定はされていませんが、税務職員の求めに応じて提示等をしていただく必要がある書面については、その提示等を遅滞なく行っていただく必要があることを踏まえれば、例えば書面で保存している国税関係書類と同様に整理する方法で整理しておく等、税務職員の求めに応じて遅滞なく提示等ができるように、適切に管理しておくことが望ましいと考えられます。

簡単にまとめると、
a. 電子取引データを保存しておき、税務調査職員が求めた情報を提示
b. 電子取引データを問題なく閲読できる状態で出力した書面を、整理した状態で税務調査職員の求めに応じて提示

の2つができるようにする必要があります。税務調査は、通常、調査予定と調査する記録範囲について事前に連絡があるので、その連絡を受けたら、a. b. を準備すれば良いと思われます。

これは、電子取引データを漏れなく保存しておき、税務調査の予告があったときに要求された条件で記録を取り出して書面に印刷できれば満たされると考えられます。

データ件数が少ないときは手作業でもできるでしょうが、量が多くなると何らかのツールが必要になります。これを実現するツールは市場にいろいろあります。手前みそですが、これは、弊社の「電子取引Save」に電子取引データを保存しておくことでも実現できます。

ご参考:電子取引SaveのWebページ

さて、では(1)施行規則の第4条1項の電子取引データ保存要件を満たすにはどうしたらいいでしょうか? これについても、市場には様々なツールがあります。上記の「電子取引Save」でも第4条1項の電子取引データ保存要件を満たす保存ができます。

結局、市販のツールを使えば簡単にできてしまう、ということになります。

従って、あとは、ご予算がどの位必要かということと、どれだけ簡単に、手間をかけずに電子取引データのデジタル保存ができるか、ということに尽きてしまうことになりそうです。

そうすると、施行規則第4条の1項を満たすためにすること、3項を満たすためにすることとで実質的になにが違うのか、ということが疑問となりますね。

前回:財務省・国税庁の電子取引データ保存要件は石ころに金メッキして保存せよというようなものではないか?
次回:2024年1月から義務化される電子取引データのデジタル保存用に最適『電子取引Save V2.0』を9月リリース予定

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