e-na伊那谷 旅便り 第36回 川下り米

お盆が過ぎても連日の猛暑ですが、朝晩はずいぶんと涼しくなってきました.田んぼの稲も8月の初めに出穂(しゅっすい)して今は刈取り前の重い穂をつけています.今回は伊那の川下り米について紹介します.

川下り米とは

川下り米とは長野県伊那市の三峰川水系でとれるお米を指します.三峰川は南アルプスジオパークと呼ばれる広大な南アルプスを源にして、伊那市長谷村を高遠町に向かって南から北に流れ、そののち伊那市の市役所の南側で天竜川と合流します.
南アルプスを源流としているため、その水は山の多様な岩石から出たミネラル分を多く保有し、その水を吸って育ったお米はいわゆる「食味」が高く美味しいとされています.
えっ?日本にはいろいろなブランド米があるのにそれよりおいしいの?と思われる方がいるかもしれません.
実は信州大学農学部の井上直人教授が2008年に伊那市各地の米の成分分析を行いました.その結果、新潟県魚沼などの日本各地のブランド米と同等かそれ以上にマグネシウムや鉄分、銅、亜鉛などといったミネラル成分を含み食味に影響していることを報告しています.この一部は、「おいしい穀物の科学~コメ、ムギ、トウモロコシからソバ、雑穀まで」(井上直人著 講談社 ブルーバックス 2014年)に掲載されています.


私たち伊那市の住人は普段何も気にせず地元のお米を食べています.昔他県に行っていた学生時代に家から仕送りで送られてきた川下り米を、そちらの知人にお譲りしたことがありました.あとからその知人に「子供たちが『このご飯はおいしい』とおかずなしで何杯も食べて驚いた.なぜあんなにおいしいの?」と聞かれて返答に窮したことがあります.それほどまでに川下り米はおいしいのですね.

伝兵衛井筋

さて三峰川水系の水といっても、盆地の真ん中の低いところを流れる川の水は直接水田にとりいれられるわけではありません。私の住んでいる伊那市の東春近は、三峰川の南、天竜川に対しては河岸段丘の上なので、川は見下ろす位置にあります。ではどのように水田の水を得ているかと言いますと、今から360年も前から幾多の苦労を経て作られた伝兵衛井筋という三峰川の上流から取水する用水路でこの地域全体の水田に入れる水がまかなわれています。
http://www.nag-doren.or.jp/wp/wp-content/themes/world/images/sosui/kamiina/pdf09.pdf

穂が出る今の時期は、水路の水は奪い合いです.特に私の家の田んぼは取水口が離れているため、上流で取水して水量が減るとまったく水が入ってくれません.このため、水量が戻る夜間にしか水を入れることができません.また平地と違って、盆地の方向の北から南へ、河岸段丘の東から西へと、田んぼは段差があります.下手をすると隣の田んぼと高さが1m以上もある場合があります.こういう土手はモグラの恰好の住処となり、そこらに穴を掘られて漏水してしまいます.夜中に懐中電灯とスコップを持って穴をふさぎに行かねばなりません.お米作りもなかなか大変です.

消費者と結ぶ

農家が加入するJA上伊那では、生活クラブ生協との間で、私の伊那市東春近地域、伊那市の南に位置する宮田村の水田を対象としてお米を契約栽培しています.今は新型コロナの流行で中止されていますが、毎年生活クラブ生協の組合員の方が子供連れで地元に来ていただき、水田での生き物調査や食事会、経験交流などを行ってきました.生活クラブ生協に出荷するためには、水田で年間に使用する農薬の成分数を8以下にすることが厳しく求められており、契約栽培の水田には以下のような看板を立てることになっています.

この契約米は、生活クラブ生協で「上伊那アルプス米」として組合員の方々に提供していただいています.
https://seikatsuclub.coop/item/rice/669890.html
※ 9成分とありますが、近年は8成分に制限されています.

さてこのような伊那の川下り米、「伊那華の米(いなかのこめ)」としてJAからご購入いただけます.是非一度味わってみてください.

https://www.ja-town.com/shop/g/g3801-114014/