マイナンバーカードには、デジタル署名用の証明書(秘密鍵)が内蔵されています。この電子証明書は「公的個人認証サービス」(JPKI (Japanese Public Key Infrastructure))という認証システムで発行されるもので、「電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)」の第2条、第3条の要件を満たしています。特に、第3条は推定効といわれ、その要件を満たすデジタル署名は、紙の場合の実印と印鑑証明書のセットに相当するとして扱われます。
そこで、マイナンバーカードによるデジタル署名は実印相当と位置づけられています。参照先:公的個人認証サービスとは
マイナンバーカードは最初のころは行政手続きでの申請、官公庁向けのデジタル文書などへの署名での利用向けでしたが、最近は民間のシステムにも開放されています。例えば、デジタル庁が提供する「デジタル認証アプリ」のページには、民間事業者向けの開発方法の紹介もあります。
デジタル庁:デジタル認証アプリ:行政機関等・民間事業者向け実装ガイドライン
そこで、マイナンバーカードによるデジタル署名が今後どのように広がるかを考えてみました。
まず、書面の契約や書類の中で個人の実印の押印が求められるケースで、書類を書面からPDFなどのデジタル文書に変更する場合です。具体的には、不動産の売買や法人の役員就任など、金額が大きかったり登記が必要な書類のケースで、例えば次のようなものがあります:
不動産(土地・一戸建て・マンションの)売買契約書、法務局へ提出する「登記申請書」など。住宅ローンの契約(金銭消費貸借契約)。会社設立・登記関係(代表取締役の選任を伴う取締役会議事録、代表取締役就任承諾書など)
このような契約や書類を書面からデジタルに変更した場合、書面に実印を捺印し、印鑑証明書を添付する代わりに、マイナンバーカードによるデジタル署名が有効となります。これは実印相当の利用例といえます。
一方、2020年からの新型コロナウィルス感染症危機を契機に、書面の世界では押印の廃止が急速に進みました。こうして、従来は三文判で済んでいた押印は廃止される傾向にあります。この結果、書面なら押印も必要ないケースで、マイナンバーカードによるデジタル署名が多用されるようになっています。
一つの例ですが、現在は、個人の確定申告を書面で提出する場合は捺印をしなくても問題ないようです。ところが、e-Taxのシステムを利用して確定申告の書類を作成して、デジタル送信で申告する際には、マイナンバーカードによるデジタル署名を行う必要があります。
e-Tax: データ作成(帳票選択・帳票編集・電子署名・添付書類)
もうひとつの事例を挙げると、会社法では取締役会議事録の作成保管が要求されています。取締役会議事録を書面で作成した場合、代表取締役は代表者印で捺印します。しかし、出席取締役は三文判でも良いことになっています。この取締役会議事録をデジタル化すると、代表取締役は、法務省が発行する代表者の電子証明書(秘密鍵)で署名し、出席取締役はマイナンバーカードでデジタル署名するようです。この場合、マイナンバーカードによるデジタル署名は三文判相当の役割になってしまいます。
上述の例は、書面なら三文判で済む箇所、あるいは押印廃止で三文判さえも不要な書類に対して、デジタル化したときはマイナンバーカードの証明書によるデジタル署名が使われるケースにあたります。今後、マイナンバーカードによるデジタル署名が普及し、身近になるにつれて、このようにマイナンバーカードのデジタル署名を三文判の代わりに使用するケースが増えていくと予想されます。
書面に実印を捺印する機会は一般人の人生にそれほど多くはありません。ですので、実印の扱いは慎重に行っている人が多いでしょう。これに対して、実印相当のデジタル署名を三文判感覚で多用する時代が来ると一種のミスマッチが生まれるかもしれません。
























