2024年4月から「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」の改正法が施行され、ウェブアクセシビリティへの配慮が義務化されています。これにより、官公庁や行政はもとより、民間企業もウェブアクセシビリティに対する理解と配慮がますます大きな課題となっています。
ウェブアクセシビリティへの配慮というのは言葉としては理解できます。しかし、実際のところ、何を行わなければならないか、具体的にどうすれば良いのかを理解し、それを日々実戦するのはなかなか難しいと感じます。ウェブアクセシビリティについての分かりやすい解説が望まれるところです。
これに関して、デジタル庁のWebページに「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」(最終更新日: 2025年10月16日)が公開されていました。ガイドブックの対象読者は、「ウェブアクセシビリティについて、全く知らない、きちんと触れたことがない方々」で、「情報システムやデジタルサービスの発注・受託業務に取り組むにあたって知っておくべきポイント」ということなので、初心者に対して、業務上の実践的な事柄のガイドを期待しました。
そこで、早速、ダウンロードして一読してみました。確かに、「3 ウェブアクセシビリティで達成すべきこと」はやるべきことがわかりやすくリストアップされています。例えば、3.1項、3.2項では、次のような項目についてそれぞれ図を使って具体的に説明されています。
・音声を自動再生することや強制的に再生させることは避ける。
・キーボード操作だけで利用しているときに、一度フォーカスしたら抜け出せないコンテンツを作らないようにする。
・光の点滅を繰り返すと、光感受性発作等を誘発しやすくなります。1 秒に 3 回を超える点滅をするコンテンツを作ってはいけません。
・スライドショーや自動で切り替わるコンテンツなどがある場合は、一時停止、非表示、停止の機能を設置する必要がある。
・ロゴ・写真・イラストなどの画像が指し示している情報を代替テキストとして付与する。
・キーボード操作だけで、サービスのすべての機能にアクセスすることができるようにする。
・閲覧や入力の操作に、制限時間を設けてはいけない。
・赤字など、色の違いだけ、あるいは太字、『右の写真』『丸いボタン』など、位置や形の違いだけで情報を伝えてはいけない。
・スクリーンリーダーで順に読み上げたときに、意味が通じる順序にする。
・必須 見出し要素だけで、セクションやブロックに含まれる要素を表現する。
・文字と背景の間に十分なコントラスト比を保つ。
・画面拡大ソフトなどを使わずに、ブラウザの文字拡大機能だけで文字サイズを 200% まで変更できるようにする。
・文字や文字コード、フォントに関する注意。
・ページの内容を示すタイトルを適切に表現する。
・リンクがどこへのリンクなのか、単体で、または前後の文脈から簡単に理解できるようする。
・ナビゲーション要素が、毎回同じ順序、表記で実装されているようにする。
・同じ機能には、同じラベルや説明をつける。
しかし、一方で、良くない点もあります。特に気になったのは、「2 ウェブアクセシビリティの基礎」の項です。「アクセシビリティとユーザビリティ」の項(p.13)なんて最悪で、言葉の概念をだれだらと回りくどく説明したり、ガイドラインと規格について内容と関係ない仕様の来歴をくどくどと説明しています。これは基礎とは言えず、実践的観点ではほぼ無意味でしょう。
また、言行不一致が激しいようです。例えば、PDFに関して「PDF のアクセシビリティを上げるのはとても難しくノウハウも少ないため、可能な限り HTML を使い、ウェブページとして情報発信するよう心がけてください。」(p.53)とされています。しかし、このガイドブック自身はPDF(のみ)で公開されており、HTML版はありません。
Webページには、「ガイドブックは、本文と付録で構成されています。また、後日HTML版や解説動画も公開予定です。」と明記されていますが、2026年3月27日時点でHTML版も動画もありません。
ユーザーにとってみれば、完全に同一内容の情報が、PDF形式とHTML形式で同時に公開されているなら、アクセシビリティに配慮したHTMLがあれば、PDF版はアクセシブルにしなくても良いという考えもなりたちます。なので、デジ庁のウェブアクセシビリティへの配慮というのは、実際は建前だけであり、自ら実践するつもりはないのではないか? とも見えてしまいます。
PDFとHTMLを同時に公開しようとしたら、ドキュメントを設計するときから同時公開することを想定して準備を進めなければいけません。具体的にはドキュメントをWordなどでスタイルを使って記述するなど構造化に配慮する必要があるということです。しかし、この「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」はInDesignで制作されています。どちらかというとレイアウト志向になっています。これが、PDF版はできてもWeb版はなかなかできないということになってしまう原因です。
デザイナーが好き勝手にデザインしたレイアウト志向のPDFドキュメントをHTML版にするのは、本質的に難しい作業です。レイアウトというのは、二次元配置志向になります。アクセシビリティは、特に音声読み上げは一次元配置です。二次元を一次元に変換するのは次元を落とすことになるため、困難であまり望ましくありません。XML・HTMLなどの構造化文書はツリー構造なので、ツリーをトラバースすることで、一次元に変換しやすいのです。このあたりについて、ドキュメント設計者にはもっと理解を深めて欲しいものです。


