W3C「日本語組版の処理要件」の最新版が8月11日に公開されました

日本語組版の処理要件(Requirements for Japanese Text Layout、略称 JLREQ)のWorking Group Note最新版が2020年8月11日に公開されました[1]。page2020のXMLパブリッシング交流会『ウェブ出版と日本語組版の未来』で言及されていたものですね[2]。

日本語組版におけるさまざまな事柄について触れられており、項目も多いので「最初から最後まで順に読む」というよりは「必要な箇所を探して都度読む」という読まれ方が多いかもしれません。
この記事を書いている人間はそうで、今まで序論などはあまりしっかり読んでいなかったのですが、この機会に一読することにしました。

序論の「この文書の目的」に次のようにあります。

すべての文化集団は,独自の言語,文字,書記システムを持つ.それゆえ,個々の書記システムをサイバースペースに移転することは,文化的資産の継承という意味で,情報通信技術にとって非常に重要な責務といえよう.

この責務を実現するための基礎的な作業として,この文書では,日本語という書記システムにおける組版上の問題点をまとめた.具体的な解決策を提示することではなく,要望事項の説明をすることにした.それは,実装レベルの問題を考える前提条件をまず明確にすることが重要であると考えたからである.

また、「この文書の執筆方針」には次のようにあります。

組版処理と読みやすい組版設計の関係は別問題である.しかし,両者は不可分の関係があり,解説でも両者を同時に説明する事項も出てくる.しかし,できるだけ両者を区別して記述することを心掛けた.具体的な方法としては,読みやすい組版設計の解説は,できるだけ注記で述べるようにした.

しばしば「Rule」あるいは「Specification」であるかのように捉えられることもありますが、
「Requirements」、それも(主には)組版処理への要件といえます。


さて、「J. Revision Log」に以前の版からの変更点が簡潔に記されています。
ルビについての記載の集約他、表現の修正、閲覧性の向上などが挙げられていますね。

Merged and simplified handling of overhanging ruby text on punctuation marks (former 3.3.8 f,g,h).

約物にかかるルビ文字の定義を集約し簡単化しました (以前の 3.3.8 f,g,h).
[Issue, PR]

English wording fixed.

英語表現の修正.
[Issue, PR; Issue, PR; Issue, PR]

Merged English and Japanese documents into a single document, with switches to allow readers to view the text in either language, or both.

英語版と日本語版の統合,および言語切替機能の導入.
[7dcc927; Issue, PR]

Link targets were assigned to each list item and note, making it possible to point into the document in a more fine-grained way.

文書内リンクがリスト要素とノートにつくようになり,文書内の特定の場所を指すリンクが利用できるようになりました.

Also minor editorial changes were made to structure and wording of the text. A detailed list of changes, including diffs, can be found in the github commit log.

また細かな構成・表記上の修正を行いました.変更点を含む詳細な変更履歴については github のコミットログを参照してください.

「以前の3.3.8 f,g,h」、つまりルビが親文字よりはみ出した場合の処理の調整で、ルビ後に一部の約物が来るようなケースですね。

1版の該当箇所をみると、確かにほぼ同じ文で、対象にしている文字が異なるものの、その調整処理も同じにみえます[3]。

Webページ上の話になりますが、英語版と日本語版を並列表示可能になったことによって、表現が適切であるか閲覧者が比較しやすくなったといえるでしょう。
煩わしければ片方だけにもできますし、データ量としては英語版の文章、日本語版の文章両方を合わせたところで大きいとは言えないはずです。
普段はあまり意識しないのですが、W3Cのページレイアウトも2012年のJLREQのそれと比べ、改良されています。画面が横に広いと目次がサイドバーについて行が画面端から画面端に伸びるのを防いでいたり、
Noteなどの表示スタイルが枠と背景色で見やすくなっていたりしていますね。

具体的にどのような変更があったかですが、コミットログを少しだけ見てみると次のようなコミットなどがありました。

  • 「processed」「processing is」などとしていた箇所をそれぞれ具体化
    • – it is processed identically to mono-ruby;
      + it is laid out identically to mono-ruby;
  • ルビの項での「letter」を「character」に修正する
  • 画像サイズを削減

JLREQについてのGitHubのissue[4]でOpenのものは2020年8月17日時点で63ありました。
内容とは別のissueもありますが、「question」「enhancement」「future」などのラベルから気になるトピックを見てみると良いでしょう。

以前のイベント参加レポート[2]でも言及しましたが、これは公開された活動です[4]。
英語での意見投稿はハードルが高いと感じている方も、日本語で投稿した内容をJLREQのチームが拾い上げ、翻訳を行ってくださいます。

過去・現在の書籍組版などからの要件もありますが、Webをはじめさまざまなメディアがこれからも変化を続けるにしたがい、「日本語組版の処理要件」自体も変化するでしょう。
これが継続的な活動として続けられていることに改めて感謝の気持ちを抱きました。


  1. [1] Requirements for Japanese Text Layout
    日本語組版処理の要件(日本語版)
    W3C Working Group Note 11 August 2020 https://www.w3.org/TR/jlreq/
  2. [2] 「2/7のXMLパブリッシング交流会に参加してきました」- アンテナハウス I Love Software!2
  3. [3] https://www.w3.org/TR/2012/NOTE-jlreq-20120403/ja/#adjustments_of_ruby_with_length_longer_than_that_of_the_base_characters
  4. [4] https://github.com/w3c/jlreq/issues/


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