4月25日よりCAS-UBのバナーを次のように変更しました。この背景には、最近、本(PDF)、ブック型Webページ[1]、EPUBの関係について考えたことがあります。
CAS電子出版では『XSL-FOの基礎 第二版』を2017年3月に発売しました。詳しくはこちらをご覧ください:『XSL-FO の基礎 第2版 – XML を組版するためのレイアウト仕様』
本書は、現在、アマゾンなどのプリントオンデマンドによって紙の本として販売しています。一方で、4月から全文をWebページ版として公開しています。
もともと本書の出版は、本の販売収益よりもむしろ、XSL-FOという技術を普及促進し、ひいては弊社のAH Formatterの販売に繫げようということを意図しています。初版はKindle版などを販売しましたが、第二版からKindle版を見合わせて、Webページ版として公開することにしました。
これは、CAS-UB V4のユーザーガイドの体験に基づきます。CAS-UBは、V4からユーザーガイドなどのドキュメントをPDF版とWebページ版を作って両方ともWebで公開しています:CAS-UBサポート&ガイド一覧(V4よりも前はPDF版とEPUB版を公開していましたが、EPUB版はあまり利用されないようなので廃止しました)。
こうしてPDF版とWebページ版を並べておきますと、自分ではPDF版を参照することがなくなり、Webページ版を参照するようになってしまいました。主に、CAS記法の説明ページやPDF出力のガイドを参照するのですが、情報を参照する際の利便性という点ではPDFよりもWebページが圧倒的に便利です。(今頃になって! という感もありますが、情報参照のための利用という点では、PDFはWebページに決して勝てないと思います!)
利便性では:Webページ版≫PDF版>EPUB版 という状態です。
4月にMicrosoft Windows 10の大型アップデートがあり、新しいEdgeでEPUB3を表示できるようになりました。これを体験していただく参考として、Webページ版に加えて、4月21日からEPUB3の公開も始めました(EPUB復活?)。
(EPUBは、こちらからダウンロードできます:CAS電子出版出版物一覧のページ
Edgeの紹介ブログはこちら:Microsoft EdgeのEPUB表示機能はなかなか良い。これからはEdgeだと言いたいところですが、しかし、残念な点もあります。 EdgeでEPUBが復活として、ブック型情報をPDFとWebページ版とEPUB版の3つのかたちで提供できるようになりました。それが今後どうなるかです。
CAS-UBの場合は、ブック型Webページの作り方をさらに改善する必要があると考えています。CAS-UB V4のWebページ版は、短期間で作ったもので完成形とは言えない面があります。またPC版とモバイル版のWebページを統合できていないのも問題です。ということで、CAS-UBの次の課題は、Webページ版のテーマ化、レスポンシブWebページ版の選択を追加することです。
[1] 本やマニュアルのような冊子として提供されるものをWebページにしたものをブック型Webページと(勝手に)呼びます。ブック型Webページは、限定された読者を対象にします。大勢にPRすることを主目的にしませんので、横串検索あるいはSEOの観点よりも、ドリルダウンで情報を探す内部検索や、主にコンテンツ内部をナビゲーションしていく仕組みが重要と考えます。マニュアルの世界ではWebHelpと呼ぶことがあります。oXygenとか、RoboHelpなどの製品にはWebHelpという言葉が使われています。但し、WebHelpという言葉自体には厳密な定義はないようです。
[2] AH Formatter
[3] 補足ですが、今日は、ブック型Webページのデザインの考え方について書かれた本を探して、神田の三省堂本店に並んでいるWebデザインの本を端から見てみました。Webページのデザインについての解説書はたくさんありますが、大抵の解説書は魅せるデザインをどう作るかというテーマを中心に取リ上げているようです。しかも、トップページのレイアウトパターンと、1つのHTMLファイルの作り方の解説が主体です。ひと塊りのWebページをどのように構成するかという良い解説は見つかりません。テクニカルドキュメンテーションの業界ではどうなんでしょう?
続きを書きました:本はWeb化するか? (続き)Webアプリケーション化したオンライン版の本 vs シンプルなHTML+CSSの本
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「ワンソースマルチユースで拓く、ブック型Webページの未来」(本ブログと続きの2回分をまとめて整理し直しました)
>利便性では:Webページ版≫PDF版>EPUB版 という状態です。
上記は「レプリカ電子書籍」としてのEPUB版は、という理解でよろしいですか?
コミックはそれなりに、スマホ最適化をしたおかげで、つまりレプリカではない、コミック電子書籍を志向したので、あそこまで伸びたのだと感じています。つまり利便性はあった。
もし仮に、レプリカではない、EPUB版電子書籍がでてきたら、Webページ版≫PDF版>EPUB版の図式は変わるのでしょうか。
それとも、epubは紙のデメリット部分を引き継ぎながら、紙のメリットを表現できない、だめなフォーマットで、これからは、「紙の本」と「WEB本」とが並立していく時代がくるということでしょうか。
そのとき、売り物は「クローズ(紙は完全にクローズ、EPUB電子書籍もクローズ)」が常識でしたが、この点は変わる、ということでしょうか。「WEB本」がオープンのままで、有償のビジネスモデルを構築できるとお考えでしょうか。できるとして、そのとき備えておくべき「条件」は?
お聞きしたい、ところです。
少し考えてみましたので、とりあえず。
>もし仮に、レプリカではない、EPUB版電子書籍がでてきたら、Webページ版≫PDF版>EPUB版の図式は変わるのでしょうか。
につきましては、レプリカ電子書籍としてのEPUBとか、あるいはレプリカでないEPUB版電子書籍の意味があまり良く分かっていないのですが、PDFは紙のデジタル版なのに対して、EPUBはWebをパッケージ化したものなので、どちらかというとWebとEPUBは似ていると思います。では、なぜ、EPUBの利便性が低いかと言いますと、第1に今までのEPUBリーダーはブラウザより使い勝手が悪いためと思います。第2は、Webと比べてEPUBはダウンロードして開いて読むまでのステップが多いためちょっとした調べ物には向かないためと思います。
このブログでは情報を見るという観点からの評価を述べていますが、視点が変れば評価結果も変ると思います。
>これからは、「紙の本」と「WEB本」とが並立していく時代がくるということでしょうか。
本の目的によりますが、情報提供あるいは啓蒙という点では、EPUBは補助的な役割になると思います。パッケージとして長期的に保存したり、電子本として販売したり、という点ではEPUBも良いと思います。Webは、もっぱら発信元の都合でリンク切れなどがおき、利用者が探せなくなったり消えてしまったりしますので。
>売り物は「クローズ(紙は完全にクローズ、EPUB電子書籍もクローズ)」が常識でしたが、この点は変わる、ということでしょうか。
これは、ビジネスモデルの作り方に依ると思います。デジタル化されたことで、従来の印刷・製本による流通とは、コスト構造が変りますので、従来とはとは違うビジネスモデルが実現できるはずです。『XSL-FOの基礎』の場合は、技術の利用者を増やそうという目的ですので販売収入は重要ではありません。同様に本自体の売上を重視しない出版物も多いと思います。一方、出版物でお金を稼ぐことが目的でしたら、それなりのビジネスモデルを考える必要があるのでしょう。コピーのコストがゼロである、という特性を生かしたビジネスモデル=例えば読み放題、会員制などを実現し易くなると思います。
小林 さん
整理されたご説明、ありがとうございます。
「(現状のレプリカ)epubは紙のデメリット部分を引き継ぎながら、紙のメリットを表現できない、だめなフォーマット」だという私の考えと小林さんのご指摘は一致しています。
レプリカepubとは、紙をそのまま電子化したものを指しています。
わたしの上記、「デメリット部分」とは、ご指摘の「EPUBリーダーはブラウザより使い勝手が悪い」、「ステップが多いためちょっとした調べ物には向かない」ことを指しています。
紙は一方、一覧性ですぐれ、また「不動点」として存在し続けます。
「不動点」とは、これもご指摘の「Webは、もっぱら発信元の都合でリンク切れなどがおき、利用者が探せなくなったり消えてしまったり」する、ということがない、常に存在する=「不動点」です。ただし、紙にはURLがないので、自分の書架にないとその不動点に容易にただりつくことができません。
かたやでブログなどのWEBでの表現は、紙ほどではないにしても、一覧性ですぐれています。少なくともEPUBより参照や検索がしやすいです。行ったり来たり、が可能です。
そしてもうひとつの論点、「クローズ」に関して、
・本自体の売上を重視しない出版物
・出版物でお金を稼ぐことが目的=読み放題、会員制
というソリューションのアイデアをいただきました。全く同感です。
さて実は、ここまでの議論を踏まえて、私は「読み放題、会員制」へ行く手前で、つまり「読み放題、会員制」の条件としてのスケーラビリティ確保までのいちステップとして、カード型を構想し実行しています。
アイカードブック(intelligent card book 略称:iCardbook)とは
http://society-zero.com/chienotane/archives/5067
iCardbook(アイカードブック)の船出
http://society-zero.com/chienotane/archives/5033
なぜこういったこをとを始めたか。
利便性では:Webページ版≫PDF版>EPUB版
これは、あくまである書き物が発見された後のことです。
「このことはどこにかいてあるだろう」ということでは断然、Webページですが、epubの内容をそのままオープンにしWEB化してしまうと、「出版物でお金を稼ぐ」ビジネスモデルとしては失格。
そこで、カード型のebookを作っておいて、ひとつひとつのカードはブログにオープンにしてしまう、ということをやっています。始めてまだひと月なので、まだまだGoogleの検索にはかかってこないですが、「実験」としてやっているところです。
いずれにせよ、調べものには、
利便性では:Webページ版≫PDF版(紙のレプリカ)>EPUB版
なので、当面は紙に無料版のPDFをつけてあげる、というのが専門書や実用書の、売上を伸ばすためのヒントになるのかもしれませんね。
(「このことはどこにかいてあるだろう」への解決にはなっていませんが)
神宮司さん
iCardbookのご説明ありがとうございます。
続きで、米国での例を調べてみました。CAS-UBのブログの方にまとめています。観点が少々違いますが、ご参考までに。
本はWeb化するか? (続き)Webアプリケーション化したオンライン版の本 vs シンプルなHTML+CSSの本
http://blog.cas-ub.com/?p=11778
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