CSS組版はどこまでいけるだろうか?

表題に関して、最近、参考になった話題をひとつ紹介します。併せてCSS組版の未来を少し考えます。

去る8月1日に、DITAユーザーズというメーリングリストに「CSS3 vs XSL-FO for PDF output」[1]という質問が投稿されました。

投稿者は、現在、SDL+AH XSL FormatterでDITAからPDFを作成している[2]とのことですが、次のようなストレートな質問をされました。

「XSL-FOは古くて頑丈です。CSSはひとあたりが良くて単純で、スタイルをWebと共有するのも簡単です。XSL-FOを使い続けることに未来がありますか? それともCSSに全面移行するべきでしょうか?」

XML組版といえば、ここ十数年XSL-FO一辺倒でしたが、CSSで組版できることへのアピールが増えてきました。製品もいくつかあります(弊社でも出しております)。このところ、DITAコミュニティでもCSS組版の話題が散見されるようになってきました。

この質問は、DITAユーザーズというディープなXMLユーザーのコミュニティで寄せられたもので、参加者は例えば書籍の組版をする人たちとは異なっています。しかし、投稿者の疑問はDITAユーザーに限らず、XMLやHTMLを使う人が共有されているものでしょう。

DITAユーザーズでは、直ちにクールな回答がいくつか寄せられました。

その中でもEliot Kimber氏の意見が参考になりました。Kimber氏は3月に来日されたのですが、その際に聞いたところ、「いま一番関心があるのはVivlioStylesのCSS組版」とのことで、大きな期待を寄せていました。そして、5月にサンフランシスコで開催されたCSSワーキング・グループのF2F会議にオブザーバーとして自ら参加したとのことです。氏のメーリングリストの意見を要約すると、次のようになります。

1. VivlioStyles、Prince、Antenna HouseのCSS組版は歩みを進めているが、CSSの印刷向けの機能が標準化されていないので、必然的にベンダー特有になっている。
2.CSS仕様に印刷向けの機能を入れることには、ブラウザベンダーが団結して反対しているので、標準化は難しそうだ。
3.CSSとXSL-FOの機能を比較してみれば、CSSではできないことがいろいろあることがわかるだろう。これは、だれも行ったことはなさそうだ。
4.CSSにはバージョンXというものはなく、モジュール毎に進化している。
5.ページ組版に特化したHTMLを作り、ブラウザのCSSとJavaScriptでそれを組版するのは確かに可能である。しかし、ブラウザとCSSが両方共進化している中で、それを実装してメンテナンスするのは容易ではないだろう。

氏の結論としては、予測可能な将来において、DITAコミュニティがXSL-FOに代えてCSS組版を採用するのは難しい、ということです。

CSSを組版に使うための根本の仕様は「CSS Paged Media Module Level 3」[4]です。これは1999年に「Paged Media Properties for CSS3」として最初のドラフトができてから何回となく改訂されています。最新は2013年3月版ですが、まだワーキングドラフトの段階から進んでいません。次のバージョンもEditor’s Draftとして用意されているところです。

新しいものを試してみたいという人はどこの世界にも一定数はいると思います。個人で試す範囲では、仕様がどうであろうとあまり関係は無いでしょう。しかし、その一線を超えて、実務の世界で積極的に使うにはまずCSS組版の仕様が勧告になることが前提になるでしょう。

現在のCSS組版は、各社それぞれが自己流の土台の上に築いている、というのが実態です。弊社は2006年からCSS組版の開発に取り組み、2009年に初版をリリースしました。CSS組版仕様の進展は、2006年に予想したよりも、残念ながら、遙かに遅かったと言わざるを得ません。その理由の一つに、CSS組版は、CSSの本流ではない、ということがあるのかもしれません。

弊社の立場としましては、CSSの仕様が勧告案(Candidate Recommendation)に進むのを待ちながら、着実に実装を進めていきたいと考えているところです。

[1] CSS3 vs XSL-FO for PDF output
[2] 同:Message 3
[3] 同:Message 7
[4] CSS Paged Media Module Level 3 W3C Working Draft 14 March 2013