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「デジタル時代の著作権」 お茶の間化・多様化する著作権の課題を取り上げた重要書

「デジタル時代の著作権」(野口 祐子著、ちくま新書、2010年10月10日発行、ISBN978-4-480-06573-5)を読み終えました。以前に、「ブックビジネス2.0」で野口さんの文章を見かけていて、もう少し詳しい資料があると良いなと思っていたところ、書店の店頭で見かけてさっそく読みましたが、読んでみてびっくり。とても素晴らしい内容です。
 
著作権は著作物や権利者を保護するための法律ですが、著作権制度の基本は19世紀の活版印刷技術によって大規模な複製が可能になった時に作られたものだそうです(pp.52~58)。20世紀には音楽・映画などを複製したパッケージの流通も対象になったのですが、物流に依存するという流通の仕組みは、19世紀と変わらなかったので、著作権法の基本的な枠組みを変える必要はありませんでした。ところが20世紀末、インターネットの時代に情報流通の仕組みが一変しました。著作物をデジタルデータとすることで、大規模な複製と流通がほとんどコストを掛けずに、誰でもできるようになりました。つまり、一昔前であれば、大きな設備をもつ専門の業者だけが可能であった大量複製は子供達でさえもできるようになり、誰でも知らない間に、従来の著作権法で定める著作者の権利を侵害しうるようになりました。即ち、著作権法の役割が従来の「業界法」から「お茶の間法」へと変貌したことになります(pp。80~84)。
 
コンピュータと通信技術を使った流通では、書籍はもとよりあらゆる著作物の流通は、ネットワークを介した複製によって行われます。権利者側の立場でこれをコントロールする技術が、DRM(Digital Rights Management)と呼ばれるものです。DRMにより、印刷物であれば自由であった著作物の表示・読み上げなどのアクセス権なども、権利者の側から制御できるようになります。米国でハリウッドのロビー活動を原動力として1998年に成立した「デジタル・ミレニアム著作権法」という著作権法の改訂では、このアクセス権も保護対象とし、コンテンツにアクセスするためにDRMを解除することも著作権侵害としました。このため様々な悲喜劇が起きていることが報告されています(pp.145~156)。
デジタル社会の到来により、恐らく、著作権法の根本的な改正が必要になっているのでしょう。しかし、著作権に関する国際条約であるベルヌ条約の27条3項では、条約の骨子の改正は加盟164カ国の全員一致でないと変えることができないと定められているそうです(p.89)。
 
こうしたことから新しい提案として、著作物を公開する際の標準ライセンスとして、クリエイティブ・コモンズライセンスを採用することで著作物を自由に活用できるようにしようという運動があることを紹介しています(pp.223~237)。
 
著作物に関する権利を権利者が占有することで、権利者が利益を享受でき、それが新たな創作活動への動機となります。一方、著作物は多くの人に利用されてはじめて社会にとって役に立ち、社会と人類の発展につながることになります。従って、過度な占有は社会全体にとって必ずしも好ましくないことです。オープンにすることで権利者の収益にとってもプラスに働くことも多々あります。著者はこのように、著作権は占有と共有のバランスの上に立って考える必要があると主張しています。
 
本書は、上で紹介した以外にも、デジタル化した社会における著作権に関する課題を幅広く取り上げており、関連業界人はもとより、多くの人にとって大変参考になる内容となっています。