電子書籍が増えることで書籍産業がどう変わるかを考えているのだが、これまでに読んだいろいろな論考の中で、私的に一番印象が深いのは、松浦晋也氏の「電子書籍についての考察(その7)君はベートーベンと戦えるか――電子時代の創作者の苦悩」という記事だ。
○原文:http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100505/1024702/
この論考では、「電子書籍はユーザの目からみて基本的に品切れがなくなる。」そこから「過去のベストセラーと、新しい出版物とが同じ土俵で売り上げを競うことになる。 」という結論を引き出している。このため新しい作家は、昔の作家と同じ土俵で戦わなければならないことになるという。
電子書籍には品切れがなくなるだけではない。印刷物の場合は初版で終わった書籍は絶版本となって、従来は古本屋でなければ入手できなかったのだが、電子書籍が普及すれば、過去の書籍が電子化されてよみがえってくるだろう。この典型は日本では少々規模は小さいが青空文庫であり、国際的にはGoogleブックスである。これらは無償版であるが、今後は、比較的新しい絶版本も有償の電子本として蘇ってくるのだろう。
そうすると、これは作家だけではなくて、出版社にとっても競争の環境が激変することを意味する。つまり、電子化によって書籍産業がフロー中心に稼ぐ世界からストック中心で稼ぐ世界に転換する可能性がある。絶版本が電子化されて復活してきて、顧客の予算をめぐる競争に加わることになると、新刊本の需要は当然減るだろう。その場合、膨大な書籍のストックを持っている老舗出版社は、過去の書籍の電子化で死んでいたストックを蘇らせて、ストックビジネスで収益を上げることができるかもしれない。しかし、新興出版社はストックでビジネスができないので、経営はますます厳しいものになるよう予想される。
新興出版社については、その時、どのような生き残り策が考えられるのだろうか?