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W3C CSS組版仕様の標準化の動き

先月(5/19~21)、韓国で行われたW3C CSS Working GroupのFace to Face meetingに参加しました。アンテナハウスは今年4月からW3Cに再加盟しており(2年半ぶり)、それから初めて参加するCSSWG会議でした。そこで私(村上)は、自己紹介をかねたプレゼンをさせてもらいました。

プレゼン(英語): CSS3 for formatting books


CSS3で本を組版するために

私のこと、AH Formatterのこと

  • 私(村上)はAH Formatterの開発リーダーです。
  • AH Formatterはプリントフォーマッタ―でありXSL-FO, SVG, MathML, (X)HTML, CSS3 Paged MediaなどのW3C仕様をサポートしてます。

AH Formatterはどのように生まれたのか

  • 1990年代後期、私はフリーランスのプログラマーで、TeX組版システムの代わりになるものを作りたいと思ってました。TeXは難しかったので。
  • そんなときW3CのXSL-FOとCSS3のドラフト仕様を見つけて、これでできる、チャンスだと思いました。
  • その私のアイデアをアンテナハウスという東京のソフトウェア会社が採用してくれました。
  • CSS3はWebブラウザでも実装が進むと期待できるので、われわれはXSL-FOのほうから実装をはじめることにしました。

XSL-FO?

  • Extensible Stylesheet Language—Formatting Objects
    XML変換言語=XSLTと一緒に使われます
  • XMLを組版してPDFを生成するのに使用されます
  • Antenna House XSL Formatterを2000年に最初にリリース
  • XSL-FOを使う仕事は今も成長してます!
    • DITA (Darwin Information Typing Architecture)を使った大規模なマニュアルの制作に
    • JATS (Journal Article Tag Suite)を使った学術雑誌の制作に
    • など

XSL-FO利用例のひとつ: IRS(米国国税庁)の出版物

  • IRS = Internal Revenue Service, 米国内国歳入庁(国税庁)
  • IRSの出版物(PDF)はXSL-FOで組版されている
  • AH Formatterが採用された理由: ページフロート機能、多言語組版対応、など

CSS3 Paged Media など

  • 2009年リリースのAH Formatter V5.0からCSS組版もサポート
  • CSS2.1およびCSS3モジュール(Multi-column, Writing Modes (縦書き), Paged Media, GCPM (柱・欄外見出し、脚注、相互参照、など), その他)をサポート
  • CSS3対応とAH独自拡張によりXSL-FO組版に近い機能が実現できている

AH FormatterのCSS組版で制作されている本の例

電子書籍と紙の本を同時に作るために

  • 電子書籍(EPUB, Kindle, Web online)は(X)HTML+CSSでできている
  • 紙の本(or PDF)も(X)HTML+CSS(for print)で作ることができる
  • だから、ページ媒体(Paged Media)用のCSS仕様の標準化が電子出版にとって重要。それにより電子書籍と紙の本が同時に作れるようになる

電子書籍と紙の本を同時に作るシステムの例

WebブラウザでのCSS Paged Media対応も進むことを期待

  • タイポグラフィの質の向上とあいまって電子書籍や雑誌で高度なページレイアウトが実現されるように
  • 将来のEPUB仕様に反映されるように
  • Webでも電子書籍でも、スクロールとページ方式の両方の読み方を切り替えられるとうれしいよね
  • それから印刷機能も良くなってほしい…

W3C CSS仕様の標準化がとても大事なこと

  • オープンWebプラットフォームが世界をひとつに
    ――世界中の人々がWebや電子書籍や紙の本での出版を、オープンなWeb標準技術(HTMLやCSS)を使ってそれぞれの言語で優れた組版品質で可能になること
  • W3C仕様の標準化とその実装が進むこと(Webブラウザもフォーマッタ―も)で世界が変わります!

Thanks!


本の組版に関係するCSS仕様の議論が進展

「CSS3で本を組版するために」というプレゼンを用意したのは、W3C CSSWGで、本の組版に関係するCSS3仕様の議論が進むようにと思ってでしたが、もともとその流れは出来ていたようで、期待以上にいろいろ進展がありました。特に次の仕様など:

CSS Generated Content for Paged Media Module (CSS GCPM)

この「CSS GCPM」仕様が、本の組版のためのCSS仕様の中心的なものです。(“CSS Books” の名前でWHATWGでも仕様検討がされてることは以前に紹介している。)

新しくCSS GCPM仕様のエディターになったDave Cramer氏は米大手出版Hachette Book GroupでCSS組版(Princeを使用)を推進してきた人です。W3C Digital Publishing IGのLayout & Styling Task Forceのリーダーで、Requirements for Latin Text Layout and Pagination (LatinReq, 欧文組版の要件)のエディターでもあります。

今回の会議ではCSS GCPM仕様のFootnotes(脚注)について議論が進み、また、今後 CSS GCPM Level 4 の仕様策定が進められることが決まりました。
(その議事録: [CSSWG] Minutes Seoul F2F 2014-05-20 Part I: Footnotes in GCPM, CSS Scoping

また、GCPM以外でも、CSSでの本の組版にとても関係する次の議論などありました:

Drop Caps (CSS Line Layout)

これもDave Cramer氏が担当。段落先頭の文字を大きくかざるdrop capを実現する新しいプロパティについて議論が進みました。
(その議事録: [CSSWG] Minutes Seoul F2F 2014-05-20 Part III: CSS Line Layout

CSS Logical Properties

論理プロパティの仕様策定が進められることが決まりました。上下左右という物理方向に代わって、ブロック方向(block-)あるいはインライン方向(inline-)の先頭側(start)、末尾側(end)という論理的な方向を使ってプロパティを指定することができるようになり、縦書き・横書き・RTLなど書字方向の切り替えに対応しやすくなります。AH Formatterやブラウザエンジン(WebKitなど)では、それぞれのベンダープレフィックス付きで論理プロパティが実装されていますが、やっとそれが標準化に向かうということです。

オープンなW3C標準仕様で高品質な組版を

オープンなW3C標準仕様によって、スクリーン上でも、紙の印刷においても高品質な組版が実現することは、世界中の多くの人々にとって役にたつことだと思います。W3Cメンバーとして、またAH Formatter開発者としてそれに関わっていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。


追記(6/13):「CSS組版とその周辺」勉強会について、それからAH Formatter事例紹介セミナー(7月8日)の紹介

CSS組版の勉強会を有志でやっていこうということになりました☞「CSS組版とその周辺」勉強会

AH FormatterでのCSS組版もXSL-FO組版もいろいろ紹介するセミナーを7月8日(火)に開催します。セミナー紹介と申し込みは☞「AHFormatter事例紹介セミナー」


本の組版のためのCSS3ドラフト仕様を見てみよう

以前のブログ記事「HTMLBook仕様とCSS Books仕様標準化の動き、「CSS書籍組版」セミナー」などで書いたように、本のページの組版のためのCSS3仕様の標準策定が進められてます。最新のドラフト仕様は次のものです。

  • CSS Paged Media

    ページ媒体向けのCSS仕様の基本。ページのマージン、ページサイズ、ページヘッダーとフッター、ページ番号、トンボ出力などの機能が定義されています。

  • CSS Generated Content for Paged Media (GCPM)

    柱、脚注、ページセレクタ、目次のリーダー、相互参照、ブックマークなど、書籍組版に必要な基本的な機能を定義

    次の「CSS Books」は、この仕様のWHATWG

  • CSS Books [WHATWG]

    上のCSS GCPMの内容をほぼ含み、そのほかにも書籍の組版に関する機能が盛り込まれている。名前付き領域、ベースライン・リズム(行グリッド)など。

  • CSS Figures [WHATWG] (CSS Page Floats)

    図版などをページ上にフロート配置する方法を定義しています。

私どもの製品AH Formatterでは、すでにこれらのドラフト仕様で定義されている機能の多くを先行実装しています。また、これらドラフト仕様では、AH Formatterの実装も参考にされています。

しかし、これらCSSドラフト仕様のほうは、標準の仕様として世界に受け入れられるものになるように、修正され続けている状態です。よりよい仕様になって、早く完成してほしいですよね。

ぜひ、このブログを読んでくれているCSSや組版のことに関心を持っている皆様も、これらのドラフト仕様を読んで、フィードバックをしてはいかがでしょうか?


HTMLBook仕様とCSS Books仕様標準化の動き、「CSS書籍組版」セミナー

【追記2013-10-19】プレゼン公開:「CSS組版の今とこれから」
【追記2013-12-10】関連記事:CSSによる本作りの未来を占う―HTMLBookとはどのようなものか? 果たして普及するだろうか?(電子書籍、電子出版のCAS-UBブログ)

10月18日、FormatterClub「CSS書籍組版」セミナーですでした

FormatterClub「CSS書籍組版」セミナーご案内(無料セミナー)

さて、「CSS書籍組版」の世界の動きがこのごろ活発です。そのことを紹介します。

HTMLBook (オライリー)

オライリー社は、書籍組版(PDF出力)にAH Formatter (CSS)を採用してますが、従来、DocBook XML形式から電子書籍用(X)HTMLとPDF用に変換していたのを、HTML5を入力(オーサリング)と出力の両方に利用する「HTMLBook」というフォーマット(HTML5で本のコンテンツをマークアップする方法を定義)に移行することを決めていて、そのドラフト仕様やサンプルが公開されてます。

HTMLBook (GitHub)
HTMLBook Specification (Working Draft)

このHTMLBook形式で本(電子と紙の両方)を作るという動きが広がれば(オライリー社はだれもが使えるようにオープンにしています)HTML+CSSでの本の組版がもっと普及することになると期待しています。

オライリーの人々は色々なところでCSSでの書籍組版やHTMLBookについてプレゼンや記事を発表していて、それらはとても勉強になります:

“Building Books with CSS3” by Nellie McKesson, June 12, 2012

☞Balisage: The Markup Conference 2013, August 2013
“The Case for Authoring and Producing Books in (X)HTML5” by Sanders Kleinfeld

“HTML5 is the Future of Book Authorship” by Sanders Kleinfeld, September 19, 2013

☞W3C Workshop: Publishing and the Open Web Platform, September 2013
“Using Web Standards in Print and Digital Book Workflows” by Adam Witwer

W3C Digital Publishing Activity

W3Cで、Web標準技術(HTMLやCSS)を電子書籍とともに紙の本も含む出版に活かすための取り組みとして、Digital Publishing Activityという活動が始まっていて、そのワークショップが今年2月にニューヨーク、6月に東京、9月にパリで行われました。

W3C Digital Publishing Activity

各ワークショップのプレゼンやレポートが公開されていて、Web標準技術で本を作るための課題は何か、現在の標準仕様で足りないものは何か、という議論が活発にされていることが分かります:

W3C Workshop: Great Expectations (New York, USA, February 2013)

W3C Workshop: eBooks & I18N (Tokyo, Japan, June 2013)

W3C Workshop: Publishing and the Open Web Platform (Paris, France, September 2013)

CSS Books, CSS Figures (W3C→WHATWG)

AH Formatterは、一般のWebブラウザと同様にHTMLとCSSを解釈してページ内容をレイアウトしますが、本のページに特に必要な機能(柱・ノンブル、脚注、図版の様々な配置など)を定義するCSS仕様(CSS3 Paged MediaCSS3 GCPM, Generated Contents for Paged Media)は、標準が未完成のため、ドラフト仕様をベースに独自拡張して実装しています。そのため、将来の標準仕様では変わるかもしれないし、実装が少ない(ブラウザに実装されていない)ということで入門的な情報が少なく、導入しにくいということがあると思います。だから、その標準化が早く進むことを期待してます。

その標準化でのごく最近の重要な動きは、WHATWG (Web Hypertext Application Technology Working Group)で、CSS BooksおよびCSS Figuresのドラフトが公開されたことです。これらのCSS仕様は、もともとはW3CドラフトのCSS3 GCPMだったもので、その仕様のエディタのHåkon Wium Lie氏(Opera CTO)が、仕様標準化をより早く進めるためにと、WHATWGでも標準化作業を行うことにしたというものです。

The WHATWG Blog: “CSS Books & CSS Figures”, October 14th, 2013 by Håkon Wium Lie

CSS Books

CSS Figures

この動きによって、書籍組版のためのCSS仕様の標準化が進むことを期待します。
また、AH Formatterも今後のバージョンアップで、新しい標準仕様を実装していかなくてはなりません。
(現在実装しているAH拡張プロパティは、将来ともサポートを続けますので、安心してお使いください)


「CSS書籍組版」セミナーのご案内

「CSS書籍組版」のセミナーを10月18日(金)に開催します。

で紹介しているように、AH FormatterのCSS組版によって本が作られてます。

WebやEPUB電子書籍と共通の(X)HTMLとCSSを使って、紙の書籍・PDFも作れるということのメリットがあります。

しかし、AH Formatterが先行実装しているCSS3 Paged Media系仕様のことや、どうやってページ体裁を指定するか、それで何ができるのか、あまり知られていないと思います。

そこで、このセミナーを開催します。

内容

  • CSSで書籍組版を:(有)イーエイド 藤島雅宏
  • CSSを利用した書籍組版の事例紹介:アンテナハウス(株)村上真雄

開催日時: 2013年10月18日(金)14:00~16:30(開場13:40)
会場: 浜町区民館(東京都中央区日本橋浜町三丁目37番1号)

詳しくは、案内ページへ:
FormatterClub「CSS書籍組版」セミナーご案内(無料セミナー)

アンテナハウスのブログの次の記事もどうぞ:
AH Formatter V6.1 MR2リリース~FormatterClubの案内


CSS3とUnicode仕様の縦書きの文字の向きの議論について

関連資料

「縦組み時の文字の向き―その理論とマークアップ方法」(PDF)は、SVO(英数字を正立、CSS3のtext-orientation:upright)を基本としてMVO(英数字を横倒し、CSS3のtext-orientation:mixed-right)を部分的に使用する文書マークアップ方法を提唱しています。その「マークアップ私案」より引用:

  • SVO、MVOは縦組みの文字スタイルの一種である
    • 文書スタイル毎にフレキシブルな指定を可能にすべき
    • 文字コードの単一規格としてはなじまない
  • SVOは横書きテキスト原稿の縦組みに相性が良い
    • SVOは自動縦中横とも相性が良い。
  • MVOテキストで全角文字コードを使う方式は縦組み専用
    • 自動縦中横も相性が悪い。文書のルートに設定するのは非推奨。
  • UTR#50でMVOをデフォルト規定すると、WebやEPUBの縦組みマークアップはかなり不便になるだろう
  • SVOとMVO協調方式が良い
    • ルートSVO→ノード(ブロック)MVO→区間(スパン)MVO

しかし残念なことに、UTR50最新(draft 7)では、SVOが削除されて、CSS3のtext-orientation:uprightは、“forced upright”(強制正立)ということに変更されました(そのW3C CSSWGの議事録)。

text-orientation:uprightの問題(UTR50 SVO廃止、“forced upright”へ)

括弧類、ハイフンやダッシュ類などは、縦書きで向きを変えないと役に立ちません。すべて正立にする“forced upright”は問題です(図1)。

“forced upright”といっても、実はフォント依存で必ずしも正立にならない文字があるのにも注意が必要です。和文フォントでは和文用・全角幅の括弧類や全角ダッシュなどには回転した形の縦書き字形があるのでそれが有効になります。困るのは、矢印類(上↑など)がuprightの指定で正立させたくてもフォントによっては正立にならないということです(図2)。この仕様のままでは、矢印類を正立にするには、uprightの指定ではなくて、縦中横の指定を使わなくてはなりません。

text-orientation:uprightを役に立つものにするためには、SVOのデータが必要です。つまり、SVO=Rの文字(括弧類、ダッシュ類など)は横倒しとし、SVO=Uの文字(矢印類も含まれる)は必ず正立の字形が使われるようにすることです。

text-orientation:mixed-rightの問題(UTR50 MVO)

‘シングルクオート’と“ダブルクオート”UTR50 MVOのデータではシングルクオート(U+2018/2019)はT(変形可で正立)、ダブルクオート(U+201C/201D)はR(横倒し)です。両方とも横倒しにする意見とダブルクオートを正立にする意見とで議論があります(図3)。

“ダブルクオート”は日本語の縦書きでは一般に使わないことになってます。広告の見出しなどに変形した形で使われることがありますが、標準とはいえません。通常は“ダブルクオート”ではなくて〝ダブルミニュート〟が使われます。したがって横倒しの欧文でしかダブルクオートは使用されないことになるので横倒しとするのが適切であると思います。

双柱 ‖ (U+2016)が正立と決められても、たいていの和文フォントでその縦書き字形が回転したものになっているため仕様と合わない結果になります。欧文フォントが選択されたら正立して、和文フォントが選択されたら横倒しになるというのでは混乱します。

波線 〰 (WAVY DASH U+3030)が正立になってしまう問題については、前回記事で書いたとおりです。

ラテン、ギリシャ、キリルなどアルファベット類(Letter)は横倒しという方針なのに、Unicodeの Letterlike Symbols ブロックにあるLetterが正立(同ブロックにあるMath Symbol系は横倒し、またMathematical Alphanumeric Symbolsブロックの同種の文字も横倒しなのに)というのは整合性に欠けます。同じ種類に見える文字の向きがばらばらになってしまうというのは、問題です(図4)。

そのほか、以前にも議論を紹介してますが、一部の記号類で横倒しとするか正立とするか意見が別れています。©®℗℠™‰‱§¶†‡⁂⁑などです。英数字や欧文用の約物・記号類を横倒しとするMVOではそれらの記号類も横倒しのほうがより自然であり、基本的にすべて正立(英数字も和字扱い)のSVOと使い分ける上で有利と思われます。しかし、SVOではなくてMVOを日本語縦書きのための標準とするUTR50の現ドラフト仕様の考えでは、これらは正立ということのようです。

記号類をひとつひとつ吟味してデフォルトの向き(MVO)を決めるのは難しいから、大雑把にまとめて決めざるを得ないということはあるでしょう。矢印類すべて横倒しというのは、各矢印記号の実際の標準的な使われ方と必ずしも合っていなくて、上向き↑や右肩上がり↗は縦書きで正立させたいことが多いでしょう。一方、三角形類はみな正立とされてますが、上向き三角形▲はそれがよくても、左右方向を指す三角形(◀や▶)は横倒しにしたいことが多いでしょう。しかし記号の種類毎に決めざるをえないため、それで仕方がないかもしれません。意見が別れている記号類も、どこかで線を引いて決める必要があると思います。できるだけ利用者みんなが納得できて、混乱が生じないような仕様になることを願います。


koboのEPUB3縦書きをためしてみた

前回記事ではUTR50(Unicode縦書きの文字の向き仕様)の議論を紹介しましたが、UTR50が何に使われるかというと、まずCSSの縦書き仕様(CSS3 Writing Modes)であり、それを使っているEPUB3の縦書き実装です。そこで最新のEPUB3対応リーダー(とくにkobo Touch)で縦書きの文字の向きがどうなっているか、ためしてみました。

縦書きでの文字の方向をテストするEPUB3サンプルを作りました。

次の画像は、サンプルEpubTextOrientation.kepub.epubをkoboで表示したものとiPadのiBooksで表示したものです。


koboのEPUB3リーダーもiPadのiBooksも、レンダリングエンジンはWebKitがベースです。しかし、koboのほうは縦書きの文字の向きについて手が加えられているようで、iBooksとはだいぶ違います。

気になるダブルクオートの向き

text-orientationがデフォルトの場合がUTR50のMVO (Mixed Vertical Orientation)に相当します。koboでの結果でまず目に付くのが “I’m” のダブルクオート(U+201C/201D)が正立していることです。英語を囲んでいるのにダブルクオート正立はかなり不自然です。それに日本語でもこれでは使えないことは先日ツイートしたとおり:#UTR50 koboの縦書きではdouble quotes “ ” が正立してこんなことに! ノノカギ〝 〟を使えばよいのに。欧文にも和文にも役に立たないダブルクオート正立。(サンプル:青空文庫『愚人の毒』小酒井不木)

text-orientation: uprightでは括弧()も正立!?

text-orientation: uprightの指定は、UTR50のSVO (Stacked Vertical Orientation)に相当するはずです。しかし、いまのWebKitの縦書き実装の制限らしくkoboでもiBooksでも括弧類やダッシュなどSVO=Rである文字でも正立にしてしまうようです。そして、正立した幅の狭い文字は、行の中で左に寄せられて配置されてます。

text-orientation: uprightでの矢印の向きはとても問題では?

MVOの場合、矢印類はR(90度回転)です。したがって上矢印↑は右向きに、右矢印→は下向きに、右上矢印↗は右下を向きます。これに対してSVO (text-orientation: upright)の場合、UTR50現ドラフトではSVO=U(正立)なので、iBooksの結果のほうが正しいように思えるのですが、しかしCSS3 Writing Modesドラフトのここによるとは、SVO=Uであっても縦書き用字形があればそれを適用するということになっています。その結果、矢印類のうち縦書き用字形(vert)が回転したものになっているもの(↑→など)は回転した結果になりMVOと見た目は同じに、それ以外(斜め方向の↗など)は正立ということになります。問題は、縦書き用字形の有無はフォントによるため、選択されるフォントによって矢印の向きが変わってしまうということです。上矢印↑を縦書きでも上を向くようにとuprightの指定をしても、環境によって上を向いたり右を向いたり方向が決まらないということです。これはUTR50よりもCSS3 Writing Modesの問題かと思います。

WAVY DASH〰〰が正立になってしまう問題

WAVY DASH (U+3030)は「キャ〰〰」のように使われるものなので、縦書きで正立ではまずいです。UTR50ドラフトでは、SVO=MVO=Tr (縦書き用字形を使用、もしくは回転)とされています。しかし、koboでもiBooksでも結果は正立です。理由は、CSS3 Writing ModesドラフトではUTR50のTrもUも区別しないでTu(縦書き用字形があれば使用して正立)と同じに扱うためです。そして多くのフォントではWAVY DASH (U+3030)に縦書き用字形はありません。その結果、ただ正立になってしまいます。

-epub-text-orientation: sidewaysという指定はEPUB 3.0仕様に合ってる?

koboのEPUB3縦書きでは、-epub-text-orientation: sideways(あるいは sideways-right)の指定により、日本語の文字も含め横倒しにできます。気になったことは、それは EPUB 3.0 の仕様と合っていないのではないかということです。

EPUB 3.0 の CSS Profile の CSS Writing Modes のところを見ると、-epub- プレフィックスを付けて CSS3 Writing Modesドラフトの2011-04-28版のプロパティ名と構文を使うこととあります。このドラフトでは、text-orientationの値は sideways- ではなくて rotate- でした。だから EPUB 3.0 で、縦書きでの全文字横倒しを指定するのは -epub-text-orientation: rotate-right のはずです。しかし、koboでは、rotate-right は効果がなくて、現在のCSS3 Writing Modesドラフトでの値である sideways-right や sideways が採用されているようです。


UTR50(Unicode縦書きの文字の向き仕様)標準化のために

ツイッターでの議論(ハッシュタグ #UTR50)のまとめサイト:
UTR#50(Unicodeの縦書きの文字の向き)の話題 #UTR50

議論は主に2つあると思います。

SVO(英数字正立)の議論

ひとつはUTR50が定義しようとしている2つの縦書きモード SVO(Stacked Vertical Orientation = 英数字も正立)およびMVO (Mixed Vertical Orientation = 英数字は横倒し)のどちらが日本語の縦書きのデフォルトの文字の方向として便利であるかということ。今朝の @TokKoba (小林徳滋@アンテナハウス)のツイート:

「英数字正立論」を「SVOを基本とするコンテンツマークアップのすすめ」という題名に変更しようかと思案中。横書きした文書を縦書きで表示したとき、できるだけそのまま読め、かつ、マークアップが容易という点で、MVO方式よりSVO方式を基本とするのが優れている、という趣旨。

マークアップが容易というよりマークアップがコンテキスト準拠になるのだ。MVOでは寝た文字を起こすためにマークアップを使うがこれはレイアウト・マークアップだ。SVOでは立ってしまう欧文などを寝かせるためにマークアップするが、これはコンテキスト・マークアップになる。

私は、SVOとMVOを場合によって使い分けることができればよいと思います。MVOをデフォルトとしても、自動縦中横の機能があれば、単独の欧字や2桁までの数字を縦中横・正立にすることができるので、マークアップの手間をなくすことができます。自動縦中横や自動正立の機能を定義するためには、どの文字がデフォルトで横倒しかがはっきりしている必要があるので、MVO仕様は重要です。

MVOの議論(英数字は横倒し、では記号類は?)

MVOは、横書き用の文字(洋数字、ラテン文字など)は縦書きで横倒しにするというものですが、問題になっているのは、横書き用といえるかどうか曖昧さがある記号類です。

WebKitの現在の縦書きの実装では、記号類がほとんど横倒しになってしまいます。丸数字①②③、星★、三角▲、絵文字☎など、みな横倒しで表示されます。和文専用の文字(全角の英数字も含む)だけ正立でほかは横倒しというのは、とても分かりやすい仕様といえますが、これがデフォルトではさすがに使いにくいのではないかと思います。

一方、現在のUTR50ドラフトのMVOは、パーミル‰のような単位や欧文用の記号(たとえば§や¶)が正立であるなど、ほんとうに正立でよいのか議論になっているものがあります。

アドビ山本氏によるUTR50 MVO仕様への提案

MVO仕様を完成させためには、まずMVOの正立・横倒しの基準を明確にすることが大事です。そのために、アドビの山本太郎氏による提案 About the MVO of UTR # 50 (Comments by Taro Yamamoto) が、参考になると思います。とくに次の部分:

3. Symbols and abbreviations
3.1.1. “Would be Upright” Priorities

U3: Symbols and abbreviations that are mere pictures or geometric shapes without any directionality.
(記号類のうち方向性を持たない絵文字や幾何学図形:☎や★や▲は正立)

U4: Western-origin ligatures and abbreviations whose decomposed forms can be represented with ordinary Latin alphabet characters or Arabic numbers or symbols that are −90 degrees rotated in vertical lines.
(欧文由来の合字や略字であっても分解して通常のラテン文字や数字や記号を使って書くことができるものは正立。これにより℃やⅣや¼や№は正立)

3.1.3. “Would be Rotated” Priorities

R4: Symbols and abbreviations that are originated in Western typography or writing systems.
(欧文由来の記号類や略字類は横倒し:これにより©§¶†‰℀などは横倒し)

このような基準によって見直されたMVOのデータが提案文書(PDF)に含まれています。これを、もとのUTR50ドラフトに含まれるデータ(Unicodeデータファイルの形式と、より分かりやすいHTML形式)と同じ形式にして比較しやすくしたものを作ってみました:

HTML形式のほうは、UTR50の現在のデータに対して変更されているところを色付きにしてみました。レビューの参考にしてください。

続きを読む


EPUB3.0とAH Formatter

メインのアンテナハウス公式ブログ I love software!はスタッフの当番制で、今回それが回ってきたもので次の記事を書きました:

既存のEPUBのコンテンツに、CSS3 Paged Mediaの機能を使って柱やノンブルをつけてAH Formatterで組版する方法を解説しました。
本来ならこのCSS組版ブログにこそ、こういう記事をもっと書かなくてはですね。
それではまた。


『W3C技術ノート 日本語組版処理の要件』書籍版、CSS組版の事例としても注目!

W3C技術ノート 日本語組版処理の要件先日、「W3C技術ノート 日本語組版処理の要件」出版記念セミナー〈電子書籍と日本語組版〉というイベントがありました:

このセミナーでの発表のとおり、『W3C技術ノート 日本語組版処理の要件』(JLReq)書籍版の制作には、AH Formatter V6によるCSS組版が使われています。JLReqは基本的にWebで公開されているものなので、(X)HTML+CSSで組版されることは自然なのですが、書籍版はスクロールして読むWebとは違うため、ページを読みやすい体裁にするためにいろいろと工夫が必要で、そのためにAH Formatter V6で拡張されている機能が利用されています。

どうやってJLReq書籍版がAH FormatterのCSS組版で作られているか、詳しくは事例紹介のページをご覧ください:


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