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2007年05月06日

PDFと署名(20) — 電子証明書と個人情報

次に、電子証明書と個人情報保護の関係について考えて見ます。PDFを含めて文書に電子署名すると、文書と署名データと電子証明書を一緒に相手に渡すことになります。このように電子証明書の内容は相手方に開示されるものです。

現在、さまざまな認証局が発行している電子証明書は、公開鍵証明書の標準であるX509のバージョン3を基本としていますが、subjectAltNameを独自拡張して、証明書所有者について詳しい情報を保存しているものが多いようです。

例えば、次のようになっています。
・公的個人認証サービス (東京都)— 氏名, 生年月日, 性別, 住所, 氏名代替文字の使用情報, 住所代替文字の使用情報
・電子認証登記所 — 商号、本店、資格、氏名、会社法人番号、管轄登記所
・AOSignサービス(日本電子認証株式会社) など — C=JP, S=本社住所(都道府県), L=本社住所(群、市町村以下), O=企業名, CN=氏名
・TOiNX電子入札対応認証サービス(東北インフォメーションシステムズ株式会社) — 利用者氏名(かな漢字表記、以下、同じ)、組織名、区市町村名、都道府県名、国名
・日本司法書士会連合会認証サービス — ST=(所属する事務所所在地の都道府県), L=(所属する事務所所在地の市町村以下), O=(日本司法書士会連合会 固定), OU=(所属する司法書士会名称), T=(司法書士:司法書士登録番号), T=(簡裁訴訟代理関係業務認定:認定番号), CN=(利用会員氏名)

一方で、認定認証機関でも、subjectAltNameを独自拡張していないものもあります。このように電子証明書の発行機関によって拡張領域に記録される内容は様々です。

もともと、公開鍵暗号方式は、公開鍵をインターネットなどで一般に公開するという概念からスタートしています。そして、公開鍵の所有者等の情報を記載するとともに、公開鍵自体の情報を改竄から守るために公開鍵証明書の形式で公開します。Webサーバに掲示するサーバ証明書がその典型的な使用例でしょう。

一般に、運転免許証やパスポートなどは身分証明書としても使うことができます。これを身分証明書として使ったり、体面で相手に提示したり、あるいは、パスポートは航空券を申し込む時、コピーして提示したりします。しかし、このような身分証明書をインターネットなどで不特定多数に公開する人はまずいないと思います。これに対して、電子証明書は、公開される身分証明書であると言っても良いと思います。

電子証明書によって署名をした相手が本人であるかどうかを判断するためには、本人を特定する情報は必須です。ところが、電子証明書は署名した文書とくっついてインターネット上で相手にわたりますので、電子証明書が個人情報やプライバシーに関わる情報を含んでいると、これが公開されるのははまずいということになります。

この点に、電子証明書の矛盾があります。このことを考えると、各認証機関がsubjectAltNameを独自に拡張してしまったのは少しまずいのではないかとも思います。X509ではそのために属性証明書が規定されていて、関連する公開鍵証明書に紐付けして使うようになっています。しかし、属性証明書を発行している認証局は少ないようです。

例えば、首相官邸Webから公開されている「2006年度 電子政府評価委員会報告書」には、公的個人認証サービスをもっと普及させるために、電気、ガス、医療などにも使えるようにせよ(p.25)、とあります。しかし、そもそもいままで三文判で済ませていたような申し込み書に、個人情報満載の電子証明書を使う必然性があるのでしょうか?
電子政府評価委員会のWebページ

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投稿者 koba : 08:00 | コメント (0) | トラックバック