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2007年01月09日

Windows Vista と日本語文字コード問題(5)

2.MS明朝、MSゴシックについて

MS明朝、MSゴシックについては、「メイリオ」とは事情が違います。例えばWindowsXPに標準搭載されているMS明朝・MSゴシックのバージョンは2.3(V2.3)ですが、Vistaに標準搭載されるもののバージョンは5.0(V5.0)になります

この2つのバージョンは、フォント・ファミリー名が同じになっているため共存できません。

そして、MS明朝・MSゴシックV2.3の字形は、1990年改正のJIS規格の例示字形準拠、V5.0の字形はJIS X0213:2004の例示字形準拠とされています。つまり、V2.3とV5.0では同じコードポイントの文字を表示する字形が大幅に異なるものがある、ということです。

次の図は、「Microsoft® Windows Vista™ における JIS X 0213:2004(JIS2004)対応について」に出ているものです。
20070109-1.PNG
※面区点位置について、追記。

これらの文字は、JIS X0213:2004で例示字形が変更された168文字の一部です。JIS X0213の例示字形が変更されたのだから、フォントの字形も変更されるのが自然だろうと思われる方も多いと思いますが、しかし、JISの規格を読むと次のようになっています。

1.JIS X0213の規格は、コードポイントと、そこに対応付けられる抽象的概念としての字体を定めているものです。ひとつのコードポイントには、複数の字体が割り当てられていて、それを包摂(Unification)といいます。

2.X0213:2000 6.6.2 この規格は、字体の図形的実現としての字形については規定しない、とありますように、JISの規格書では字形を定めているわけではありません。

1.2についての概念図は、次のようになるでしょう。
20070109-2.PNG

これに対して、字体にデザインを与えて具象化したものが字形です。フォントは字形をコンピュータで表すグリフデータの集合体です。フォントの種類を識別するためにフォントファミリー名を使います。そして、「フォントファミリー名が同じであれば、各文字のデザインは同じ」というのがフォント利用の基本概念と考えています。PDFを作成する場合も、フォントを埋め込まなくてもPDFを表示する環境に同一のフォントがあれば、同じ文字が表示されるということが言われていました。

このように、JIS X0213の規格とフォント技術は抽象度の階層が異なるものです。ですので、JIS X0213の例示字形が変わったからといって、必ずしもフォントの書体デザインを変更しなくても良いのです。また、多くの文字の字形を一斉に変更するのであれば、フォントファミリー名を変更するべきです。

Microsoftの上述の資料を読みますと、JISの規格が変わったから、MS明朝・MSゴシックの字形を変えたというように読めますが、上に説明しましたようにJIS規格とフォントのデザイン変更を1対1対応に解釈するのは少々単純すぎるようにも思います。

そうしたことを考えて見ますと、今回のMS明朝・MSゴシックのバージョンアップは、そのような技術の基本、常識からははずれているように思います。この結果、特に、文字の字形を重視する印刷やDTPの世界では相当な混乱が生まれることが予想されます。

【参考】
2006年03月11日 PDFとフォント(1) 書体、グリフ、フォント
2006年01月11日 PDFと文字(20) – 字体と字形

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投稿者 koba : 08:00 | コメント (0) | トラックバック