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2008年02月19日
筋肉質の決算書を作る
アンテナハウスは12月決算です。2月末には、決算を完了して申告をださねばなりません。弊社の決算と申告で、毎年、一番最後までもめるのが、ソフトウエアの開発に要した費用の処理の問題です。昨日は、怒り心頭に発して、会計事務所の担当者を怒鳴り散らしてしまいました(ご愁傷様です)。
弊社の会社法に基づく決算では、ソフトウエアの開発に要した費用は、できる限り経費として処理しています。しかし、税務上の取り扱いでは、必ずしもそれは認められません。
この問題について、少し、考えてみたいと思います。弊社の場合は、受託開発はあまりなくて、自社製品の開発がほとんどとなります。その場合、開発に要した費用毎に、その税務上の処理は次のようになると理解しています。
開発者 | フェーズ | 税務上の分類項目 | 税務上認められる償却方法 |
---|---|---|---|
自社開発 | 製品化前(プロトタイプ開発費) | 無形固定資産 | 研究開発費・任意償却 |
自社開発 | V1.0 | 無形固定資産 | 3年で償却 |
自社開発 | V1.0超(次バージョン開発費) | 無形固定資産 | 3年で償却 |
自社開発 | 発売後の製品保守 | 経費 | |
外注 | 製品化前(プロトタイプの作成) | 無形固定資産 | 研究開発費・任意償却 |
外注 | V1.0 | 無形固定資産 | 3年で償却 |
外注 | V1.0超(次バージョン開発費) | 無形固定資産 | 3年で償却 |
外注 | 発売後の製品保守費 | 経費 |
この税務上で要求される処理は、ソフトウエア製品を開発して販売する会社として、妥当で正しい決算処理と言えるのでしょうか?何が妥当で、正しいかということを判断するのは難しいものですが、まず、これを考えてみたいと思います。
販売用のソフトウエアの開発費を無形固定資産として計上し、それを3年で償却する、という考え方の根拠は、発生する費用と収益を対応させるという考えだろうと思います。これは、一般論としては妥当な考え方でしょう。
つまり、建物を建てたとして、その建物が30年間使用できるものならば、その建築費を最初の年に一括で経費として処理するのではなく、建築費を30年で分割して毎年30分の1を経費として処理する考え方を取ることになります。所謂、減価償却の考え方となります。建物の建築費の場合は、そのような考え方をとらないと、建物が完成する毎に大赤字になるということにもなり、投資もできないことになります。
※建物の償却期間は、構造分類毎に決まっていますので、30年は仮定の話です。ご注意ください。
では、販売用のソフトウエアと建物や機械設備と同じ考えで良いのでしょうか。
この二つには、同じ考えを適用できない、非常に大きな溝があります。
・建物や設備は経営上効果を発揮する確度が高い。建築したは良いが、使えないという建物はほとんどないと言って良いでしょう。しかし、販売用ソフトウエアは作ったけれども売れないということが頻繁に起こります。つまり、リスクがまったく違うことになります。
・建物や設備は、作ってしまうと、保守費用というのは、比較的少ないコストになります。それに対して、販売用のソフトウエアの保守費用は非常に大きなウエイトを占めます。場合によっては、開発費よりも保守費の方が多くなることがあるといっても過言ではありません。こうなりますと、開発費は資産で保守費は経費というのは首尾一貫しないことになります。
・建物や設備は成長しません。しかし、販売用のソフトウエアは子供と同じで、成長させないとたちまち陳腐化して市場で死んでしまいます。競争相手と競いあって、毎日毎日改良しないといけないものなのです。また製品ジャンルにもよるとは思いますが、一般的には常に新鮮に保たないとお客さんは購入しません。また、販売用ソフトウエアの技術環境は非常に変化が激しいですから、放置すればたちまち陳腐化してしまいます。3年分割で償却するというのは、市場の実態から完全に乖離していると思います。
・市場で販売する製品の価格は、市場で決まるものであって外部要因で大きく変動します。それに対して、建物や機械類の価値は自社で利用する価値です。市場が価値を決めるものと、社内の利用価値で決まるものを取得価額で資産計上するという同じ考え方を取るのはおかしいでしょう。
こうしたことを鑑みますと、私は、販売用ソフトウエアを、建物・機械類と同じような固定資産に計上するという税務処理の要求は、経営的には妥当ではないと考えます。
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