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2008年02月14日
Page2008 トークショウ「コンピュータ組版の軌跡2」(5)
さて、最後にフォントについての話題を整理しておきます。コンピュータ組版を構成する最大の要素のひとつに、アウトライン・フォントがあります。
写研といえば、組版システムと同時にその高品質なフォントが非常に高く評価されている会社です。
1970年代から1980年代は、文字を出力する技術が光学式出力からレーザ出力(レーザ)とディスプレイへの表示へと変化を遂げた時代です。小野沢氏のお話では、1980年代前半には写研では、雑誌・新聞などのためのレイアウト装置を開発したが、ドットフォントではWYSIWYGにならなかった。しかし、1985年にアウトライン・フォントをバッチ処理組版で使った、とのことでしたので、1985年頃が印刷業界での、ドットフォントからアウトライン・フォントへの移行の端境期だったのではないでしょうか?
現在は、Adobe、Apple、Microsoftの3社が、アウトライン・フォントのベース部分を押さえているように思います。しかし、調べてみますと、写研もCフォントというアウトライン・フォントを1983年に発表しています。
ですので、1980年代初めにおいては、決して米国勢に遅れをとっていたわけではないように思います。
1986年に、アドビが写研を訪問して、フォントの提供交渉をしたが断られ、結局、モリサワがアドビにフォントを提供するようになったのは有名な話です。
なぜ写研が、アドビへのフォント提供を断ったか、詳しいことは分からないようですが、島袋氏の推測では、写研は、同社の機器の顧客である中小の印刷会社を守ろうとしたのではないかということです。すなわち、写研フォントをDTPソフトで使うことができるようにしてしまえば、これまで多額の設備投資をして写研のシステムを導入した、印刷会社の仕事が、編集者や制作会社に流れてしまうことになりますので、それを防止しようとしたのではないか?とのこと。
初期においては、モリサワからアドビに提供したフォントは、基本的な明朝・ゴシックのみのようでした。
その後、Windowsには、リョービのフォントを元にMS明朝、MSゴシックが作成されて搭載されるようになり、パソコンでアウトラインフォントが自由に使えるようになってきて、現在では、一般のユーザでも基本的なフォントを使った文書であればWYSIWYGで作成できるようになっています。しかし、まだ印刷会社が使うような高品質なフォントを誰でも使えるという状況にはなっていません。
一方、写研のフォントは、だんだん伝説化しつつあるといったら言い過ぎでしょうか。少なくとも、一般の人が写研のフォントを使って制作した印刷物を目にする機会はだんだん減っているのは間違いないところでしょう。
この間、現在までに約20年を経過しています。しかし、いつでもどこでも高品質フォントを使って、文書を可視化できるという状況ではありません。Web時代を迎えた現在では、フォントに対する要求はさらに強まっていると思います。