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2007年05月30日

「暗号解読 — ロゼッタストーンから量子暗号まで」

ここ1週間ほどで、サイモン・シンの「暗号解読 — ロゼッタストーンから量子暗号まで」新潮社刊 ISBN4-10-539302-2 を読みました。

暗号というと暗いイメージをもたれる方も多いと思います。実際、私も暗号なんて近づきたくない領域だと思っていましたが、この数ヶ月、公開鍵暗号方式を中心に少し勉強して、身近になりつつあるところで、この本を読んだのはグッドタイミングでした。

冒頭にスコットランド女王メアリー裁判の話があります。メアリーはのエリザベス女王暗殺を企てたかどで死刑になったのですが、その判決が下ったのは、メアリーと陰謀の計画者バビントンとの暗号による通信が解読されて証拠として提出されたため、というエピソードは、「弱い暗号を使うなら、使わない方が良い」という格言を強く印象付けてくれます。

また、第二次大戦前から大戦中にかけて、ドイツの「エニグマ暗号」解読についての、知恵を振り絞った戦いについても、単なる物語ではなく、エニグマ暗号機の仕組みまで技術的な面から分かりやすく解説されています。

日本の紫暗号についてもほんの少しですが、触れられています。日本海軍がミッドウエー海戦に大敗したのは、日本軍がアリューシャン列島を攻撃すると見せかけてアメリカ艦隊をひきつけておき、ミッドウエーを奇襲しようという計画が紫暗号を解読されたために、不意打ちを仕掛けた日本軍が逆に不意打ちにあった、という話です。

このあたりまでは、暗号の重要さはわかっても、既に過去の物語でもあり、現代の一般庶民には身近なものではないと感じる部分です。

しかし、第VI章「アリスとボブは鍵を公開する」という節で、コンピュータによる大量情報処理にとって鍵の配送が死活問題になっているというあたりから、急に身近な話になります。共通鍵暗号方式では、鍵の配送が最大の弱点。1970年代の米合衆国政府の鍵の管理、配送にあたったCOMSECという組織が運搬した暗号の鍵は日々何トンにものぼった、という生々しい話もあります。

公開鍵交換による鍵配送問題の解決を考案したディフィーとヘルマンの実話、RSAの公開鍵暗号方式の誕生の実話などが詳しく紹介されています。二千年以上にわたる暗号の歴史上画期的な、公開鍵暗号方式は、1970年代後半から現在にいたるインターネットの爆発に時機を一にしているということに深い感動を覚えました。必要は発明の母といいますか、見えざる神の手に導かれるようにして公開鍵暗号方式が誕生したことがよく分かります。

「暗号解読 — ロゼッタストーンから量子暗号まで」こそは、インターネット時代における暗号の重要さを認識する上でも、多くの人にお薦めしたい本です。

投稿者 koba : 2007年05月30日 08:00

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