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2006年01月11日
PDFと文字(20) – 字体と字形
加藤 弘一氏の「ほら貝」には「文字コード問題を考える」というページがあり楽しい読み物が沢山公開されています。
ほら貝:文字コードの「二千年紀の文字コード問題」の2.小文字セットと大文字セットで、加藤氏は次のように述べています。
---加藤氏の文章引用:ここから---
①JISや Unicode側では、字体レベル以上の包摂をおこなっても、フォント名指定で字体を特定すればよいと考えているようである。文字コードは複数の字体をふくむ粗い網の目にとどめておき、個別の字体は文字コート+フォント名であらわすわけだ。この立場を小文字セットと呼ぼう。
②それに対して、個別の字体ごとにコードを割り当てていくという立場もある。字形を分類する網の目が密になり、コードポイントが増えるので、大文字セットと呼ぶことにする。
現在の文字コードをめぐる論点は、結局、小文字セットを選ぶか大文字セットを選ぶかの問題に集約されると考える。
---ここまで---
この文章の後ろの方で、加藤氏は要するに小文字セットを否定して、大文字セットが良いと言っています。また、氏は、漢字の統合、特に国を超えての統合には反対のようです。
小文字セットと大文字セットの対照はなかなか興味深いと思います。そこで、これを少し検討してみましょう。
ところで、ここ1、2週間、漢字を符号化文字集合として、どうやって扱ったら良いかという問題意識で、いろいろと資料に眼を通しています。そこで、まず感じたのは、最初に用語を定義しておかないといけないな、ということです。そうしないと、もともとヤヤコシイ話が、ますます混沌として訳が分からなくなってしまいそうです。少し用語を見ておきましょう。
例えば、上で引用しました加藤氏の文章での「字体」は、JIS規格の定義では、「字形」に相当するのだろうと思います。
JIS X0213の用語定義は次のようになっています:
i) 字体 図形文字の図形表現としての形状についての抽象的概念
h) 字形 字体を、手書き、印字、画面表示などによって実際に図形として表現したもの
※JIS X0213 : 2000 p.3より。
JIS X0213規格(以下、JIS規格と言います)の用語定義、特に、字体は理解しにくいですね。まず、文字を視覚的に表記することを想定し、視覚的表記には文字を表す図形を使うということを想定しています。
Unicodeではコードポイントと言いますが、JIS規格では面区点位置と言います。
JIS規格(漢字部分)は、コードポイントに漢字の字体を一つづつ割り当てます。この時、字体は抽象的なものなので、割り当て表は、具体的な例として例示字体を示し、字書の音訓、用例などを添えて定めている訳です。例示字体で示されている図形はあくまで例です。JIS規格では字形については規定していないと明記されています。
なお、Unicodeの用語では、抽象的形状(abstract shape)という言葉が使われていますが、これがJIS規格の用語では字体に相当すると思います。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』で字体の項を見ますと、概ね、JIS規格と同じで、字体とは「図形を一定の文字体系の一字と認識し、その他の字ではないとしうる範囲に対する概念」となっています。
ここには、字形の説明もありますね。このWebページは書きかけの状態とされていますが、概ね、納得できます。そこで、今後は、ある漢字の字体というときは、抽象的形状を意味し、漢字の字形というときは、その漢字が具体的に印刷・表示される形状として使うことにします。
こうしてみますと、加藤氏の文章は、JIS規格と比べて字体と字形の言葉の使い方が逆じゃないでしょうか?
デザイン面に着目すると、字体はデザイン要素を捨て去ったものですが、当然、字形には文字デザインによる相違をも含んでいます。符号化文字集合で文字を区別する際にデザイン要素までを考慮せよ、という意見を述べる人はいないと思います。つまり、字体ではデザイン要素を捨て去って考えることについては合意されているでしょう。では、デザイン要素はどうなるの?ということは後で検討します。
字形と字体の相違はデザイン要素による相違だけではありません。その前に、もっと難しい問題があります。
一番ややこしいのが一般に異体字と言われているものです。先の『ウィキペディア(Wikipedia)』では、次のように説明されています。字体は同じだが異なる字形、ある正字体系の標準的な字形と異なる字形、或は字源は同一でも別の字体と認識される字体のこと。そうして、異体字の例を次の5種類に分けて示しています。
1. 字体の構成要素の位置が異なるもの。
2. 異なる音符を使ったもの。
3. 異なる意符を用いたもの。
4. 一方が形声で作られ、一方が会意で作られたもの。
5. 会意や形声の仕方が異なり、字形上の共通項がないもの。
さらに、ひとつの漢字には、正字・俗字という字形区分もあります。
日本では新字・旧字という字形の区分もあります。
中国では、1950年代に、簡体字を定めたため、ひとつの漢字に旧来の繁体字と簡体字というふたつの図形表現の体系ができてしまいました。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の漢字の項も参照。
このように字体を抽象的な形状というのは簡単ですが、では符号化文字集合を作る際には、特に漢字の場合、実際にどうやってこれを規定するかが難しいわけです。誰が作業しても同じに結果になるであろうような規定を定めない限り、科学的に符号化文字集合を作成することができません。
違う規定を使えば符号化文字集合は別のものになってしまうでしょう。Unicodeの漢字統合のように途中で規定が振れてしまえば、実際上、やむをえず使うにしても、理屈の上では破綻状態です。
投稿者 koba : 2006年01月11日 08:00
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コメント
1/14 タイトルを変更しました。
用語の検討→字体と字形
投稿者 koba : 2006年01月14日 10:44